1本の木に会いに行く(12)台南の ”生きている家″ 安平樹屋<台湾>

何気なく通り過ぎる街なかの、あるいはお寺や神社、山道での1本の木。ほとんどの人が関心を向けない1本の木は現代の秘境に思えます。その秘境に分け入り、ふと周囲を見渡すと人と自然のかかわりや歴史、文化が見えてきます。今回は海岸編。台湾・台南市にあるガジュマルが作る安平樹屋をご紹介します。ひとつの建物を覆いつくして同化し、“生きている家”となったような不思議な木なのです。

“台湾の京都”と呼ばれる台南

日本人観光客がたいへん多い台湾。最近では台北だけでなく、南部の台南や高雄まで足を延ばす方も増えてきました。台南は最も早くから開けた地域で1620年代にはオランダ植民地の首都となりました。市内のあちこちに古い建物が残され、あるいは復元され“台湾の京都”と呼ばれています。

こちらは市内にある赤崁楼(せきかんろう)。1652年にオランダ人によって建てられた城塞で台湾最古の建造物といわれています。

一方こちらは林百貨店。日本が統治していた戦前、林さんという日本人によって建てられた百貨店です。今では地元台南の特産品を扱う新しいスタイルのギフトショップとして人気を集めています。そのほかにも台南市内にはたくさんの見どころがありますが、それはまたのちほど。

まるで“生きている家” 安平樹屋

台南市の西、海岸近くに安平という地区があります。今では街の中心部は内陸の方に移っています。しかし、台南は貿易港として開けたので、かつては海岸部のほうが賑やかでした。そこに安平樹屋があります。地元では「ツリーハウス」と呼ばれているようです。

入口に立てば、すぐにガジュマルの木が古い建物と一体になっているのが分かります。

もともとこの建物は1858年にイギリスの貿易商社・徳記洋行が建てたもので、倉庫として使われていたそうです。徳記洋行は台湾から砂糖やお茶、樟脳などを輸出し、アヘンを輸入していたといいます。

その後1895年日清戦争の後、台湾が日本の統治を受けるようになると、その商売は日本の会社に、さらに大日本塩業株式会社の営業所として使われたといいます。それは太平洋戦争が終結する1945年まで続きました。

なぜこんな家になってしまったのかといいますと、ガジュマルは台湾でもよく見かける熱帯性の常緑樹木。台湾では寺院や庭園、また道端に植えられ、強い日差しをさえぎり、休める場所を提供してくれます。このツリーハウスは長い年月の間放置された庭木のガジュマルが成長してレンガ倉庫を取り込んでしまったのです。

ところが不思議なツリーハウスが評判となり、大勢の観光客が訪れています。室内には歴史史料が展示され、階段を上って2階の回廊をめぐることもでき、まさにツリーハウスの気分を味わえます。

とはいえ、夕方ひとりでいたら怖くなるかもしれません。上の写真の柱の下を通っているのもガジュマルの長い長い根っこなのです。いまにもガジュマルが動き出しそうな気配。

広々とした裏庭にも回廊が作られています。

ちなみにガジュマルというのは、日本での呼び名。沖縄での呼び名がそのまま使われています。漢字では「榕樹」と書きます。

榕樹の「榕」は、溶けるという意味で、地表を這う根っこ「気根」を伸ばすために、他の木や障害物の間を溶けるように縫って成長することから名づけられたそうで、絶妙のネーミングです。特に日の光の少ないところでは伸びるといいます。

回廊の先にある展望台からは、遠く東に台南市の中心部を望むことができました。ちなみに手前の運河を使ってかつては海外からの積み荷が運ばれたことでしょう。

この安平樹屋ですが、入場料は50元、日本円で180円ほどでしょうか。樹屋だけではなく、徳記洋行の資料を展示する資料館やギフトショップ、カフェなどが園内にあります。

こちらはイギリスの貿易会社だった徳記洋行のありし姿がうかがえる資料館。1979年に台南市政府によって改修され一般公開されています。当時の暮らしぶりを再現した部屋や残された資料などを見ることができます。

少しだけ国際政治的なことを考えますと、もともと先住民が暮らしていた台湾は16世紀オランダの植民地となります。その後は明王朝や清王朝の支配を受けますが、19世紀末から太平洋戦争終結まで日本に統治されました。台湾は近代において多くの国の支配を受け、苦しんだ国なのです。その割には親日感情の強い国であり、日本にとっては心強い味方といえるかもしれません。

この安平地区には、このほかにもオランダが台湾を治めていた時の安平古堡と呼ばれる要塞(上の写真)や安平老街と呼ばれるレンガ造りの古い町並みなどが残され、どこかなつかしい不思議な街。歴史に思いをはせながら散策するにはもってこいの場所なのです。

安平はグルメの街

そしてもうひとつ、安平地区ならではのグルメがあります。ここでは海の幸を味わうことができます。その代表が牡蠣。

おススメは上の料理、蚵仔煎(カキ入りオムレツ)。そして下の写真は蚵捲(牡蠣の春巻き)。安平の街なかにある「陳家蚵捲」は行列ができる牡蠣料理のお店でした。お店に入って席を取り、オーダー用紙の食べたい料理に品数を書き入れ、カウンターで会計を済ませます。電光掲示板に番号が表示されたら料理を取りにいくシステム。牡蠣料理のファストフードです。

もうひとつおススメは豆花。安平樹屋から1キロほど西の海岸近くに同記安平豆花という40年以上続く豆花の老舗本店があります。豆花とは簡単に言えば、あっさり冷たい豆乳プリンにほんのり甘い小豆がかかっているイメージ。蒸し暑い台湾ではおススメの軽食です。

実はすぐ隣に茂記黒豆花という豆花のお店があり、気になったのでそちらの豆花もいただきました。こちらのほうが粒がやや小さめかもしれません。両店とも少し大きめの茶碗ほどの分量なので、おやつ感覚でおいしく頂くことができます。

安平樹屋へのアクセス

さて、この安平地区への行き方です。台南は台北から遠いと思われがちですが、新幹線を使えば高鉄台北駅から高鉄台南駅まで2時間。乗り換えは電車の場合、高鉄台南駅でローカル線の台鉄沙崙駅に乗車して中心部の台鉄台南駅まで20分です。無料の乗り継ぎバスもありますが45分かかります。

次いで安平へのバスは台南駅の西口から出ます。最も分かりやすいのは88番の安平線。市内をぐるりと回るので時間は50分ほどかかりますが、市内観光をするつもりで。バスの正面と乗り口に88番と表示されています。

その他にも2番だと30分ほど、99番のバスだと34分ほどで安平古堡に行くことができるようです。赤嵌楼や林百貨店からであれば88番の安平線でも30分ほどで安平に着きますから、市内観光をしてから、安平地区に向かうのがおすすめです。

ちなみに台南でぜひ頂きたいグルメはといいますと、日本でも有名になった・・・

老舗台南料理店「度小月」の擔仔麵です。今ではすっかり日本でも定着した麵ですが、やはり本場で頂くのはひと味違います。台南を訪ねたらぜひ味わってみてください。

安平樹屋

住所:台南市安平區古堡街108號

開館:8:30~17:30 無休 入場料 大人50元 こども25元

台南市政府観光旅遊局HP https://www.twtainan.net/ja/attractions/detail/4869

[All Photos by Masato Abe]

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