<インタビュー> 鹿児島大学術研究院・宇那木正寛教授 第三者的な場所で対話

 昨年、石木ダムの建設予定地のうち、反対住民の家屋がある土地を含む約12万平方メートルが明け渡し期限を迎え、長崎県と佐世保市は同事業にかかる全ての土地について行政代執行の手続きに入ることが可能になった。行政代執行とはどんなものか、公共事業の望ましい在り方とは-。有識者に話を聞いた。

 ■鹿児島大学術研究院・宇那木正寛教授

 行政代執行には二つのタイプがある。空き家や違法建築の撤去など公共の危険を排除するものと、ダムや道路などの建設のために財産を取得するものだ。前者は代執行を受ける側に落ち度があるが、後者にはない。そのため後者への代執行には、行政は人権尊重の点から世論の批判を受ける。
 民家の代執行はかなり大変だ。人を排除し、家具などの財産を保存した上で家屋を撤去するため、解体・移転業者を入札で決める必要があり、財産を保存する場所も確保しなければならない。撤去家屋の柱など財産価値のあるものは丁寧に保管するため、価値を判断するのに専門家も欠かせない。手間はかかり職員は恨まれ、行政にとってもきついものがある。
 行政は土地収用法や行政代執行法に基づいて事業を進め、司法はよほど不必要でない限りは事業を認める。もはや法の枠内で考えられる問題ではなく、公共事業をどう住民と一緒に進めるかという政策的な問題だ。事業を円満に進めるには代執行権者の知事が交渉に出てきた方がいい。行政も住民も互いに相手のテリトリーで対談するのは厳しいので、第三者的な場所で平等に話をするしかないのではないか。

 【略歴】うなき・まさひろ 広島大法学部卒、同大博士課程単位取得満期退学。岡山市役所で法務や政策秘書を担当。鹿児島大法文学部准教授を経て現職。著書に「自治体政策立案入門」など。57歳。

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