【MLB】90歳で死去したWS完全試合男の豪快人生「ラーセンほどビールを飲んだ男はいない」

MLB史上で唯一ワールドシリーズで完全試合を達成したドン・ラーセン氏【写真:Getty Images】

ドン・ラーセン氏はワールドシリーズで唯一完全試合を達成、打者としての優れた成績

 1月1日、史上唯一のワールドシリーズでの完全試合を達成した右腕投手、ドン・ラーセン氏が死去した。90歳だった。

 ラーセン氏は1929年8月7日、インディアナ州ミシガンシティに生まれる(以下敬称略)。高校卒業後、セントルイス・ブラウンズ(現ボルチモア・オリオールズ)とマイナー契約を結んだが、制球が悪くなかなか活躍できなかった。1951年に徴兵され、朝鮮戦争に従軍。しかし野球選手であることがわかって陸軍の野球チームでプレーし、戦場は体験しなかった。

 1953年に復員し、この年にメジャーデビューするが、1954年に3勝21敗を記録。このオフに大型トレードでヤンキースに移籍した。ヤンキースでは先発3、4番手として投げたが、1956年10月8日のドジャースとのワールドシリーズの第5戦に先発、ピー・ウィー・リース、デューク・スナイダー、ジャッキー・ロビンソン、ロイ・キャンパネラと後に殿堂入りする大選手たちが連なる強力打線を、ただ1人の走者も出さず27人で凡退させ、MLB史上唯一のワールドシリーズでの完全試合を達成した。奪った三振は7つ。捕手はこれも殿堂入りするヨギ・ベラ。試合時間は2時間6分。初代ヤンキースタジアムに集まった6万4519人の大観衆の前で、歴史的な偉業を達成した。ワールドシリーズMVPも受賞した。

「ラーセンは打者としての優れていたが、遊びが好きだった」

 ラーセンは以後もアスレチックス、ホワイトソックス、ジャイアンツ、アストロズ、オリオールズ、カブスで投げたが、1956年の11勝がキャリアハイ。1961年以降は救援投手になったが、目立った活躍はできなかった。ヤンキース時代の同僚、ミッキー・マントルによれば、「ラーセンほどビールを飲んだ男はいない」というほどの酒好きだった。また他のチームメートは「ラーセンは95%の選手よりも才能に恵まれていた。また打者としても優れていたが、遊び好きだった」という。

 1967年限りで引退。MLB通算記録は412試合81勝91敗1548回849奪三振、防御率3.78。ワールドシリーズには10試合に登板し4勝2敗、オールスター戦には1度も選出されていない。打者としても596打数144安打、14本塁打、72打点、打率.242と野手顔負けの成績。引退後は野球界を離れ、サンノゼでセールスマンとして働いた。

 通算成績だけを見れば、ラーセンは殿堂入りする選手ではないが、ワールドシリーズでの完全試合は後にも先にもラーセンだけ。このこともあって1974年から野球殿堂入り候補にエントリーされたが、得票率は1979年の12.3%が最多。エントリー年限の1988年に候補リストから名前が消えた。しかしラーセンの偉業は殿堂入りに値するというファンは今も根強く存在する。

 ワールドシリーズでの完全試合で着たユニホームは、サンディエゴのチャンピオンズホールに長く展示されていたが、2012年に彼は孫の大学の学資にするためにこれを手元に戻し、オークションにかけた。記念すべきユニホームは75.6万ドル(約8200万円)で落札された。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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