ゴーン被告逃亡劇は日本政府黙認の下で実行された可能性を探る ゴーンが握っていた“情報”とは

関西国際空港

12月31日に保釈期間中にベイルートに密出国したカルロス・ゴーン被告の逃亡劇は、年末の慌ただしい世相を騒がせた。

ゴーン被告がどの様な手段で密出国を可能にしたのか。その方法については、様々の説が流布されている。見てきたかのような解説をする識者もいれば、密出国を許した入国管理局の責任を問う声もある。

真相は、ゴーン被告が自ら公表するまで判らないだろう。本稿では少し見方を変えて、ゴーン被告の密出国は、日本政府の黙認の下で行われた可能性を考えてみたいと思う。

なぜゴーンは悪者扱いされたのか

2018年11月19日に日産を立て直した名経営者として持て囃されていたゴーン被告の逮捕は、多くの日本人にとって意外に思われた。逮捕後にゴーン被告が、日産から不正な利益を引き出し、会社を私物化したと批判する報道がなされた。

著名人や世間の関心が高い重大事件の容疑者が逮捕されると、捜査当局から逮捕されるに相応しい悪辣な人物であるとの情報がリークされる。

だが、ゴーン被告の不正行為を黙認した他の日産幹部の責任は問われなかった。むしろ日産の日本人幹部たちが、ゴーン被告の逮捕を望み、検察当局に自分たちの責任を問わない取引の下で、情報を提供した形跡があった。

日産の日本人幹部たちは、なぜゴーン被告の失脚を望んだのか。その理由として説得力があるのは、フランス政府の意向を受けたゴーン被告が、日産をルノーの傘下に置く完全子会社化を企てた事に対する反撃説だ。

世界が注目した日本の司法制度

西川廣人社長は、2018年11月22日にゴーン被告の会長兼代表取締役の解任を発表。2019年1月に東京地検はゴーン被告を特別背任罪で追起訴。

一方、東京地裁は3月5日に保釈決定をする。東京地検は「保釈条件に実効性がない」と反発した。検察庁と裁判所の間で、海外メディアの人質司法(再逮捕を繰り返し、容疑を認めるまで長期間拘束する)への批判に対する立場の相違が見られた。

東京地検特捜部は、4月4日に特別背任容疑で4度目の逮捕を行う。4月23日の日仏首脳会談でフランスのマクロン大統領は、安倍首相にゴーン被告の処遇について善処を求めたと伝えられる。この間にゴーン被告は、日産の取締役を解任され、日産からゴーン被告を追放する目的は達成された。

だが、今年4月に予定されていたゴーン被告の裁判が始まると、政府や検察庁にとって好ましくない事態になる雲行きだった。強引な再逮捕と追起訴を行った結果、ゴーン被告の不正行為とは別に、日本の裁判制度が国際的に注目を集め、批判される恐れがあるからだ。

人質司法もそうだが、起訴されれば有罪率99.9%というのは、国際社会から人権無視の独裁国家と受け取られかねない。日本の刑事裁判の有罪率は、中国やロシアよりも高い。密出国したゴーン被告が「日本の不正な司法と戦う」と宣言したのにも理由がないわけではなかった。

握られていた弱み

フランス司法当局は、昨年1月11日にJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長(当時)の起訴に向けて捜査すると発表。

オリンピック期間中に皇室とも関係のある竹田氏が起訴されて、身柄の引き渡しを要求されれば、日本政府のメンツは丸潰れだ。また日産の村山工場跡地が、立川市に本拠を置く宗教法人『真如苑』に譲渡されている。

この取引に元総理夫人など政治家の親族が関わっていると言われる。安倍首相の親族の名前まである。菅義偉官房長官とも関係が深い日産の経営者だったゴーン被告が、裁判中に知り得た情報を公開していけば、安倍政権もダメージを受けかねなかった。

一方、フランス政府にも弱みがあった。

黄色いベスト運動以降、フランス国内は、政府への抗議デモが頻繁に起きている。ゴーン被告の逮捕に拍手喝采したのは、日本人よりも、むしろフランスの勤労者だった。フランス当局が、竹田氏を起訴して日本政府に揺さぶりをかけようとしても、フランス国内から「富裕層を守る為なら、何でもありか」と、反発される恐れがあった。

いずれにしろ、日本側が本気でゴーン被告を監視していれば、後に韓国大統領になる金大中氏を日本のホテルで拉致し、海洋上で遺棄して殺害しようとした韓国船に対し、海上保安庁のヘリが警告したように、空港を飛び立つゴーン被告のプライベートジェット機に対し、自衛隊機が着陸を命ずるぐらいは出来たはずだ。(文◎橋本征雄)

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