登場人物全員悪人!欲望渦巻く「けものみち」フィクサーの玩具になった名取裕子 1982年 1月9日 NHKの土曜ドラマ 松本清張シリーズ「けものみち」第1回が放送された日

黒幕を扱ったNHKの社会派ドラマ、松本清張シリーズ「けものみち」

1976年に発覚したロッキード事件によって、政財界を操る “黒幕” “フィクサー” の存在が一般市民にも知られるようになった。そんな戦後最大の汚職事件の記憶も生々しい1982年に放送されたのが、NHK土曜ドラマ 松本清張シリーズ『けものみち』だ。

時は、東京オリンピック開催の2年前である1962年。黒幕の下に送り込まれたヒロイン民子(名取裕子)の流転の人生を軸に、“けもの” たちが跋扈する日本の闇が描かれる。テーマ曲は、ムソルグスキー作曲の管弦曲「禿山の一夜」。魔物や幽霊が大騒ぎする一夜を描いた交響詩が、ドラマに一層の不気味さを与えていた。

自宅を放火して、寝たきり状態になった夫を殺す民子。民子に夫殺しの手引きをし、黒幕の “世話係” に送り込むホテル支配人の小滝(山崎努)。政財界を操り、意のままにできない者には冷徹な黒幕・鬼頭(西村晃)。登場人物、全員悪人。小悪党から巨悪まで、悪の見本市だ。

同情したくなるのが、甘い汁を吸い続ける巨悪への妬みから、道を踏み外していくベテラン刑事・久恒(伊東四朗)。

「本当に悪いやつはのさばり続けるのに、弱いやつを一人二人捕まえて何になるんだ。俺だって、ちょっとくらいいい思いをしたっていいじゃないか」

そんな思いにとらわれたことで、無残な最期を迎える。正義と悪の境目なんて、所詮曖昧なものだ。

和田勉の演出が強烈! 黒幕の手練手管で快感に導かれるヒロイン

これを8時台に放送してたの? と思うほど、官能的な場面も多い。小滝と民子のベッドシーンも印象的なのだが、さらにエロティックなのが、黒幕・鬼頭が民子を弄ぶ場面だ。男性としての機能は失いながらも、手練手管で民子に快感を与える鬼頭のじいさん。鬼頭を嫌悪し、じいさんの “おもちゃ” になっている自分に屈辱を覚えながらも、快感を隠せない民子。画面には、民子の恍惚とした表情がアップで映し出される。

当時23歳とは思えないほど、名取裕子が艶っぽい。のちのインタビューによると、西村晃に「ベッドシーンは、甘くておいしいもの、高級なチョコレートを食べたときの顔をしてごらん」とアドバイスを受けたらしい。

演出は和田勉。晩年は、ダジャレ好きのガハハおじさんという印象が強いが、『けものみち』『阿修羅のごとく』『天城越え』など、70年代後半から80年代前半の演出作品はいずれも強烈。クローズアップを多用することで、登場人物たちの心の機微を画面全体ににじませる。

異なる3つのエンディング、原作〜名取裕子版〜米倉涼子版

エンディングも鮮烈だ。車で逃亡した民子と小滝が、鬼頭の手下たちに追いつかれたところで “完” となる。“けものみち” を走り切ることはできなかったが、民子が一番欲しかったのは小滝。ある意味ハッピーエンドととれないこともない。

実はこのエンディング、1963年に書かれた原作とは異なる。原作では、民子は愛しい小滝によって焼き殺される。夫を焼き殺した女に相応しい最期、因果応報ということか。

ちなみに2006年に放送された、米倉涼子がヒロインのテレビ朝日版『けものみち』では、民子は炎の中から見事に脱出。燃えたぎる “けものみち” を独り歩く民子を映しながら、エンディングロールが流れる。現代の強い女に相応しいラストシーンなのかもしれないが、「引田天功かっ!」とツッコまずにはいられなかった。

カタリベ: 平マリアンヌ

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