アントニオ猪木に学ぶ「アイドルが売れる理由」 眉村ちあきはいかにしてブレイクしたのか|吉田豪

「踏出力。人間「アントニオ猪木」から何を学ぶのか」より

いきなりですけど最近、アントニオ猪木が口がどんどん軽くなってきてる気がするんですよね。選手や関係者がどれだけプロレスの裏側を暴露しても、猪木だけは秘密を守り通すから信用できるとか言われてきたんですけど、徐々にポロポロと本音が漏れつつあるというか。

たとえば『週刊新潮別冊《「輝かしき昭和」追憶》』で、73年11月5日、新宿伊勢丹前で倍賞美津子と買い物中のアントニオ猪木がタイガー・ジェット・シンに襲われた事件について。

記者が「衝撃的な出来事として大きな話題となったが、同時に当然のごとく、『ヤラセではないのか?』との批判の声も巻き起こった」と聞くと、猪木はこう答えていたんですよ。

「う〜ん。今さらね、プロレスの裏はああだった、実はこうだったとは言いたくはないんですが……ひとつだけ言えるのは、プロレスは興行なんでね。“はい、チケット用意しました。ポスター刷って貼りました”だけでお客が入れば、誰も苦労はないんですよ(笑)」

これは、まったく嘘のない本音!

実はこれ、ボクがアイドルやってる人とかによく言うアドバイスにすごい近かったりするんですよね。「いい曲をやっていればいつか売れる」なんていうのは幻想でしかなくて、もちろん曲がいいのは大前提なんですけど、それだけで売れたら誰も苦労はないわけですよ。

ボクはよくテレビなりラジオなり雑誌なりで「吉田さんのオススメのアイドルを教えて下さい」とかよく聞かれて、でもそこで曲がいいだけのアイドルを紹介するのは難しいんですよね。他に何か紹介しやすいポイントが必要で、眉村ちあきが売れたのは曲がいいだけじゃなくて、即興で曲を作る能力だとか、物販で株券を売ったりとか、ファンと日常的に公園で遊んだりとか、テレビに出るときはいつもパンツを吐き忘れたりとか、そういう紹介しやすい要素の多さが桁違いだったわけです。

さらに『猪木伝説の真相』(宝島社)という本に掲載された猪木インタビューでは、88年4月22日、新日本プロレスの沖縄大会控室で、藤波辰爾が猪木に世代交代を迫りながら自ら前髪をハサミで切って覚悟をアピールしたものの、滑舌の悪さと前髪をほとんど切ってない思い切りの悪さばかりがいまでも語り継がれることとなった「飛龍革命」について、こう語っていたわけです。

「あれもね、要するにこのくらい切るのか、どうやって切るのかっていうのが彼のセンスかどうかで……腹をくくるってところをどれだけ見せられるか。髪の毛を切るといったって、切り方があるよっていう。どう切ればいいのか、どこまで切ればいいのか。そこは教えてどうこうではない。だって自分で腹が立って髪の毛を切ったわけだから。他人が教えるもんではないでしょう、それは」

猪木は「よくシナリオがあってどうのこうのっていわれるわけでしょ。どんなものだってシナリオはあるだろうけど、そんな見え透いたシナリオじゃ面白くないだろう? ってだけの話」とも語っていて、シナリオの存在を前提として昔よりも踏み込んで話すようになった結果、やってることが藤波へのダメ出しなのが笑いました!(文◎吉田豪 連載『ボクがこれをRTした理由』)

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