第12回 「喫茶店で水の入ったコップを持ち上げた時に紙のコースターがついてきてしまった場合について」

誰かと喫茶店に行った時、最も気をつけなければいけないのは、服装でも髪型でもオーダーする飲み物でも話題でもなく、コースター、特に紙製のコースターである。

紙のコースターの場合、コップを持ち上げると一緒についてくることがある。その場合、どう対処するのが最善なのかを今回考えてみたい。

まず、コースターがコップについてきた場合、その後4つに分岐することになる。

①コースターに気づいて途中で外す

②コースターが落ちて気づく

③最後までコースターに気づかない

④最後までコースターに気づいていないふりをする

①はポピュラーな行動であろう。これはさらに分岐を生むので後述する。

②の『コースターが落ちて気づく』は会話に夢中になっている場合、または緊張している場合などに起こり得る。コースターがついていることに落下して初めて気づくため、どこか滑稽に見え、おっちょこちょい感や天然っぽさは出るのだが、落下した場所が自分の飲み物の上であったり相手のケーキの上だったり、落下した後に転がって周囲に迷惑をかけてしまったりする時がある。その状況に慌ててしまってコップを倒したりテーブルの上のものを落としてしまい、さらに状況は悪化し、店中が大惨事になる可能性すらある。

③の『最後までコースターに気づかない』は自分も相手も気づいていなければ何の問題もない。コースターはついていなかったと同じだ。

ただ相手が気づいてしまったらそうはいかない。「コースターがついてますよ!」とか「ずっとコースターがついてましたね!」「気づかなかったんですか?」などと指摘されるだろう。そんなこと言われたら気づいていなかった分だけ羞恥心は増し、ただ赤面してしまうだろう。

④の『最後までコースターに気づいていないふりをする』は③に似ているが、こちらは気づいていたのに最後まで気づいていないふりをするというもの。気づいて下手に外すと、その動きで相手にコースターがついていたことがばれてしまう。それなら何もせずコップを置いてしまうほうが良い。ただしこれも相手が気づいていない場合のみ有効で、気づかれてしまったのなら③と同様になる。「気づいていないふりしてやり過ごそうとしてましたよね?」「私はわかってましたよ」なんて言われたらこれまた終わりだ。

さて順番が前後したが、①である。コップにコースターがついてきたなら、①の行動を選択する人は多いはずだ。

とはいえ、すぐに気づいて外せば慌てているように見えるし、さりげなく外したら外したで「あいつ何事もなかったようにさりげなく外してる」と思われる。水を飲み終わってから外せば「今頃?」と思われる。いずれにせよ恥ずかしさは伴うのだ。

ならばその恥ずかしさをできるだけ軽減しようとするために、さらなる分岐が生まれる。

①コースターに気づいて途中で外す……

(a)照れながらコースターを外す

(b)無表情でコースターを外す

(c)怒りながらコースターを外す

(d)「やはり……」「またか……」みたいな顔をしてコースターを外す

(a)は最も自然な振る舞いであろう。笑いに持ち込み和やかに事態を収束させる。しかし、少々道化を演じることになるわけだから、プライドの高い人には向いていないかもしれない。

(b)は相手にクールで冷たい感じを与えると見せかけて、何事もなかったかのように取り繕っているようにも見えるので、カッコ悪く映る可能性がある。

(c)は「ふざけんなよ!」「なんだよこのコースターは!」などと怒ることによって、相手を黙らせ、委縮させることはできるが、以降の会話や付き合いに支障をきたす恐れがある。

(d)は何か訳ありのような印象を与えることができる。「やはりコースターはついてきたか……」と未来を予知していたようにも、「またしてもコースターはついてきたか……」とループ空間にいるようにも見える。ただ頭がおかしいようにも見えなくもなく紙一重であることは覚えておくべきだ。

長々と考察してきたが、どのルートも一長一短である。

結局はコースターがつかないように注意するのが最善策なのだろう。

ちなみに喫茶店で二番目に注意しなければいけないのはレモンである。喫茶店でレモンティーを注文すると、スライスされたレモンが付いてくる。それをカップの中に入れるわけだが、私はレモンが紅茶の味を侵食し過ぎるのが嫌なので頃合いを見て早々に取り出す。しかし、スプーンでレモンを掬い上げるのは少々技術が必要で、一発で掬えない時や失敗してテーブルに落としてしまうことがある。上手く取り出しソーサーの端に置くことができても、カップを持ちあげるとソーサーの中央にレモンが滑って移動してしまい、その都度、カップの底を使ってレモンをずらさなければならず、それが続くと煩わしい。

このようにレモンごときで右往左往しているところを相手に見られたくないので、時にはレモンを取り出さずに我慢することもある。ならばいっそのこと食べてしまえば良いのか……?

レモンの最善策についてはまた機会があれば考察してみたい。

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