日本はバブル、アメリカは? 時代の潮目で首位に立ったフィル・コリンズの歌 1990年 1月6日 フィル・コリンズのシングル「アナザー・デイ・イン・パラダイス」がビルボードHOT100で1位を記録した日

再び到来? 元号と年代が変わった時代の潮目

令和2年にして令和最初のお正月。同時に2010年代は去り、2020年代に突入した。そういえば、似たようなことが昔にもあった。平成2年にして平成最初のお正月。同時に1980年代は去り、1990年代に突入した。

30年の時を経て、再び元号が変わり、時期を同じくして年代も変わった。もしかすると、僕らは今、時代の潮目にいるのかもしれない。

振り返ると、1980年代から1990年代になった時、僕らは確かに時代の潮目にいたと思う。米ソ冷戦が終わり、各国のパワーバランスが変わり始めた頃だった。国内ではほどなくしてバブル経済が崩壊。長い景気低迷のトンネルへと向かうことになる。それでも、世間は浮かれたままだったし、音楽CDも売上を伸ばし続けた。深刻な事態というのは、得てして、すぐには気づかないものなのだろう。

80年代から90年代へ。時代を跨いで1位になった日米の曲は?

1980年代最後のオリコンチャート第1位は、山下達郎の「クリスマス・イヴ」。年を跨いで1990年代最初の首位もこの曲だった。名曲には違いないけれど、クリスマスソングがお正月になっても売れ続けたあたりに、当時の世間の浮かれ具合が見て取れるような気がする。

その点、アメリカは既に深刻な格差社会を迎えていたので、そう能天気ではいられなかったのかもしれない。こちらも年代を跨いでの首位となったのが、フィル・コリンズの「アナザー・デイ・イン・パラダイス」(1989年12月23日付から4週連続)。フィルがアメリカの首都ワシントン D.C. で見かけたホームレスのことを歌った曲で、社会的に重たいテーマをシンプルな言葉で綴った歌詞がとても印象的だった。

他人事じゃない… フィル・コリンズの歌が共感を呼んだ背景

眠る場所がないと、道端で助けを求める女。しかし、男は聞こえないふりをして通り過ぎる。振り向きもせず、居心地が悪そうに口笛を吹いて…。彼女の足には豆ができ、歩くことさえつらい。しかし、何処へ行っても追い出されるから、また歩き出すしかなくなる。彼女には居場所がないのだ。

 あぁ、もう一度考えてみてくれ
 パラダイスにいる君や僕にも
 いつか同じような日が来るかもしれない

つまり、他人事じゃないのだということ。苦しむ彼女の姿は、未来の僕ら自身かもしれない。同じ目に合わないと一体誰が言えるのだろう? こうしたシリアスな暗さを持った歌が、新年を迎えようという時期に強い共感を呼んだあたりに、アメリカが抱えていた問題の深刻さが見て取れるようだ。

人間に限らず、この世界に本当の平等など存在し得ないのかもしれない。しかし、もし僕らがそれを諦めたら、世界はますます荒涼とした冷たい場所になってしまうだろう。大切なのは、意見、信条、人種、性別などの壁を越えて共存し、誰もが自分の居場所を持てることだ。これから始まる10年が、その実現に向けた偉大な歩みの一部となることを、心から願っている。

カタリベ: 宮井章裕

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