【社説】米・イラン緊迫 トランプ氏に自制促す

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 イラン革命防衛隊精鋭部隊のソレイマニ司令官を、米軍が無人機による攻撃で殺害した。イラン側は反発するが、トランプ政権の挑発というしかない。

 米軍が駐留するイラク軍施設へのロケット弾攻撃に、司令官が関与したためだと強弁した。これに対し、イランは武力による報復を宣言した。さらに核合意の義務停止「第5弾」を実施し、ウラン濃縮レベルを核兵器製造が可能に近づく段階までの引き上げも示唆した。

 トランプ大統領は「われわれは戦争を求めていない」と述べた。それならば、司令官の殺害を指示するのは大いなる矛盾だろう。自らの中東政策が、地域を泥沼化させていることを自覚しなければならない。

 米国は中東にさらに約3千人の部隊を派遣する方針だ。トランプ氏はそれを撤回し、軍事行動は自制すべきである。

 イランとの緊張関係を高めてきたのは、トランプ氏自身である。2018年にイラン核合意から一方的に離脱したことが発端となった。

 昨年6月には米軍の無人機撃墜によって一触即発の危機が訪れたが、直接の軍事衝突は避けられてきた。だがロケット弾攻撃で米国の民間人に死者が出たことが、ソレイマニ氏殺害の引き金になったという。

 月内にもウクライナ疑惑を巡るトランプ氏への弾劾裁判が上院で始まる。司令官殺害で国民の関心をそらしたとすれば、11月の大統領選をにらんだと批判されても仕方あるまい。

 軍事費削減を目的に、シリアやアフガニスタンの駐留米軍の撤退を検討しながら、中東情勢の悪化で実現できていない。選挙公約を実行できていないのではないのか。今回の司令官殺害も「戦争を始めるためではなく、止めるための行動だ」と述べた。苦しい弁解である。

 大統領選の民主党立候補予定者も「中東での破滅的な戦争へと近づけただけだ」と批判する。トランプ氏は中東への軍事的関与を避けることも選挙公約に掲げるが、難しいだろう。

 今回の司令官殺害に、イランの最高指導者ハメネイ師は「血で手を汚した犯罪者には厳しい報復が待っている」と強調した。そのターゲットは中東の米軍関連施設や艦船とされる。パレスチナ自治区でのユダヤ人入植地を広げるイスラエルにも矛先が向いているようだ。

 さらに気掛かりなことは、イランで反米意識が高まっていることだ。ソレイマニ氏は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を主導した英雄でもある。米軍が駐留するイラクも、司令官殺害現場となったことで「主権の侵害」と反発する。

 トランプ氏は政権内部の強硬派にあおられたのか。火種は中東各地に広がるだろう。

 緊迫する地域に2月、日本政府は海上自衛隊の護衛艦などを派遣する。日本関係船舶の安全確保に向けた情報収集のためだが、不測の事態に巻き込まれる可能性が高い。派遣は再考する必要があるだろう。

 国連のグテレス事務総長は「新たな湾岸戦争に対応する余裕はない。各国指導者は最大限の自制を働かせる時だ」と呼び掛けた。当然である。

 日本も国際社会と連携して米国とイランに自制を促し、緊張緩和を図るべきである。

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