支援部発足で「宣言」 第2部 模索する医師会 (4)始動

検索データベースについて技術者ら(手前)から説明を受ける社会支援部の医師たち=2019年10月28日夜、宇都宮市医師会館

 目の前に並ぶ技術者や営業マンに、医師たちの質問が飛んだ。

 「検索しやすくするにはどうしたらいいのか」「利用後のコメントは載せるべきか」

 質問に応えるのは、宇都宮市に本社を構えるヤマゼンコミュニケーションズの技術者ら社員3人。同社は地域情報サイト「栃ナビ!」を運営する。2000年に開設した同サイトは、地域に密着した情報発信を強みに、今では月間閲覧数約1800万ページビューに達する地場の人気サイトだ。

 宇都宮市医師会の「在宅医療・社会支援部」のメンバーが、同社の技術者らを招いて情報発信サイトについて学んだのは19年10月28日。「社会的処方」を実践するにあたり、まず着手したのが検索データベースの構築だった。

 社会的処方は、医療従事者が、貧困や孤立など患者の抱える「健康の社会的決定要因(SDH)」に対応するための有効な手段として社会資源につなぐ。つまり、地域の社会資源を知っていることが鍵を握る。

 スポーツや趣味、ボランティアのサークル、子育て支援団体、行政サービスや相談窓口など、既に宇都宮市が公開している社会資源の情報を一つにまとめてデータベース化。それを“処方”に役立てるのが狙いだ。早ければ今年夏の稼働を目指し、今も試行錯誤が続く。

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 社会支援部は19年7月、市医師会長の片山辰郎(かたやまたつろう)さん(62)、村井クリニック院長の村井邦彦(むらいくにひこ)さん(49)ら7人の医師で始まった。SDHの概念の啓発や、社会資源の健康のための有効活用、健康格差の是正を掲げる。

 初年度は検索データベースの構築のほか、医療従事者が患者のSDHに気付くための問診シートの作成にも着手した。「社会的処方のパーツを組み立て、同時に啓発に取り組む。今後は健康格差解消に向けても何ができるか、考えていきたい」。村井さんは、そう青写真を描く。

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 社会支援部の発足。きっかけは、3人の医師による勉強会だった。

 宇都宮市の村井さんの診療所を、宇都宮協立診療所医師の関口真紀(せきぐちまさのり)さん(64)と国立病院機構栃木医療センターの医師千嶋巌(ちしまいわお)さん(39)が訪れたのは、同部の活動開始から5カ月ほどさかのぼった19年2月12日の夜。立場や背景、医師としての経歴は異なるが、それぞれが社会的処方の必要性を強く感じていた。

 そんな共通の思いから「『宇都宮で取り組んでいこう』っていう話になったんです」と村井さん。

 その1カ月後には「必要な活動だ」と理解を示す片山さんも招き入れた。

 市医師会の理事ら16人がそろった役員会で、社会支援部設立を片山さんが表明したのは19年6月26日。社会的処方に取り組む市医師会の新組織の発足は翌日付の下野新聞で報じられた。

 関口さんは「医師会が公然とSDH、社会的処方に取り組むと宣言した。このことは大きな意義がある」と話す。

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