『シライサン』 乙一が長編を初監督、ホラーの新アイコン誕生か!

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 人気作家・乙一が、本名の安達寛高名義で撮った長編初監督作だ。乙一名義ではない『くちびるに歌を』を含め映像化されている自著が多い上、自身でも4本の自主映画を手掛けているだけに、手際は堂に入っている。しかも本作を観ると、かなりの映画通であることが分かる。

 例えば、『リング』などのジャパニーズホラーがあみ出したといえる「追いかけてくるよりも立っているだけの方が怖い」といった恐怖描写の新原則をうまく活用しているし、恐怖の主体である“シライサン”を直接画面に登場させずに怖がらせる演出は、『ジョーズ』にさかのぼる。眼球が破裂する異様な死亡事件が相次ぎ、親友や身内が真相を追ううちに呪いに感染していくという物語も、『リング』を踏襲した「呪い+都市伝説」のバリエーションである。

 さらには、撮影監督に『アルビノの木』の監督・金子雅和を起用していることからも、映像への強いこだわりが感じられる。実際、狭い場所でのクローズアップ撮影などでは、広角レンズに逃げることなくピン送りで対応しており、その端正な画面設計(女優たちが美しい!)も本作の魅力の一つといえる。もちろん、希代のストーリーテラーらしい練り上げられた脚本にもうならされる。クオリティー通りにヒットしさえすればシライサンも、貞子のようにホラーアイコンとして映画史に刻まれることだろう。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本:安達寛高

出演:飯豊まりえ、稲葉友、忍成修吾

1月10日(金)から全国公開

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