SUPERCHUNK - 8年振りの日本公演を果たしたインディーロック・シーンの良心、そのフロントマンであるマック・マッコーンが日本の音楽について語る

写真:Masao Nakagami/撮影協力:Bad News

日本へ来るたびに感動している

──インタビューの前にひとつお願いがありまして……。

マック:なんだい?

──実は1年ほど前、ボブ・モールド宛にメール・インタビューの質問を送ったんですけど、いまもって返事が来ないんです……まだ待ってるので、あなたから一言リマインドしてもらえればと……。

マック:ハハハハハ、OK(笑)。ボブにメール・インタビューに返信するよう伝えておく、だね(笑)。メモしておくよ。

──ありがとうございます! さて、今回の来日公演についてなんですが、招聘に関わっている関係者からも、サポート・アクトを務めるバンドからも、スーパーチャンクに対する愛情というか熱がすごく伝わってきます。ご自身としては、どう感じていますか?

マック:うん、今こうして僕たちが座ってるこの取材場所からして、僕たちの曲名を冠したレコード屋さん(LIKE A FOOL RECORDS)だし、昨日の公演で対バンしてくれたHello Hawkにしてもそうだし……さすがにちょっと恐縮してしまうというか(笑)……いやぁ、本当に感激してる、嬉しいよ。日本では、1992年に初めてライブをやってるけど、昨日の夜、下北沢を普通に歩いてたら、自分たちが1992年に出たライブハウスの前をたまたま通りかかったんだ! 「あ、ここ前にライブをやったとこだ」ってね(※註:当時のギルティは恵比寿にあったので、正確には別の場所かも?)。ただ、そのあと2001年まで日本ではライブをやってなかった。以前に行った土地で、もう1回ライブをできるかどうかってけっこうわからないものなんだ。長いこと機会に恵まれなかったりもするからさ。そうして今回が5度目の来日になるんだけど、毎回すごく温かく迎え入れてもらっていると感じてるよ。ファンの人たちもステージも最高で、日本へ来るたびに本当に感動してるんだ。極めつけは僕らの曲を店名にしたレコード屋だろう!(笑) いやもう、頭がどうにかなりそうなくらいに光栄だね(笑)。

──他にも人気のある海外バンドはたくさんいますが、こういう深い愛され方をしてるケースは、なかなかないと思います。

マック:いや、僕も本当にどうしてなのかわからないし、実際に、とても貴重なことだと思うけど……たぶん、最初に日本へ来た時のファンが今でもついてきてくれてるのかもしれない……とは言いつつ、今回のライブを観に来てくれる子たちの中には、初来日時にはまだ子どもだったりした人もいるよね? いったい僕たちのことをどうやって知ったのかな(笑)。本当に不思議だけど、とにかくありがたいし光栄なことだよ。

Spotifyのプレイリストにある日本人アーティスト

──さて、最近Spotifyのスーパーチャンクによるプレイリストに、日本のアーティストが入っていて、興味深く聴きました。それに関連して質問したいんですが、まず昨日のショウでも共演した田渕ひさ子さんも在籍する、ブラッドサースティ・ブッチャーズの曲をピックアップしていますよね。

マック:大好きなバンドで、昔ベイサイドジェニーだったかな……たしかそうだったと思う、そこで共演した時にCDをもらってね。アメリカでは、日本盤のCDなんてなかなか手に入らないから、当時はブッチャーズについて、それしか情報源がなかったんだけど、とにかくすごく気に入ったんだ。

──どんなところが気に入ったのですか?

マック:バンド自体のセンスが面白いよね。名前だけ聞いたらハードコア・バンドを想像するし、実際ものすごくノイジーな音を鳴らしてるけど、ポップさも兼ね備えていて、その絶妙なバランスがいいなって思う。

──それから、おとぼけビ〜バ〜も選ばれてましたが、彼女たちのことは今年のSXSWで観て「インクレディブル・ショウ!」っていう感想をインスタグラムにアップしてましたよね。

マック:前から噂では知っていて、ネットで何曲か聴いてから、SXSWのライブをチェックしに行ったんだ。そうして実際のステージを観て圧倒されたよ。すごくいいバンドだと思う。サウンド的には違うかもしれないけど、ボアダムズに近いエネルギーを感じるんだよね。カオスなんだけど、単なるカオスではなく、統制のとれたカオスというか。曲が脇道に逸れて、突然止まったかと思ったら、バラバラになったピースがまたひとつになって……それが一見、何の脈絡もなく行なわれているかのようなんだけど、実はちゃんと計算し尽くされてる。状況をすべて理解した上であえてカオスを作り出しているっていうか。それをやってのけるのって、かなりすごい技術だと思うんだ。

──たしかに。で、他にプレイリストを見てて興味深かったのは、横田進、吉村弘、竹村延和といった、エレクトロニック・ミュージック系のアーティストも並んでいたことなんです。

マック:うん、大好きなんだ。ただ、アメリカではどれも入手が困難でね。たまに突発的に再発盤が出たりするけど……〈Light in the Attic〉ってシアトルのレーベルがあって、そこが環境音楽というか、いわゆるエレクトロニック・ミュージックとかアンビエント系の日本の音楽のコンピレーションや再発盤をボックスセットで出してるんだ。そこからまた自分のお気に入りアーティストを見つけて、単体の作品を探していったりするよ。ただ、そもそも日本のこの種の音楽って、アメリカでは手に入りづらい上に、廃盤になってるものも多いから、ストリーミングとかで検索しても引っかかってこなかったりしてね。それでも、尾島由郎のコラボレーション・ユニット=Visible Cloaksも聴いたし……あれは本当に美しいよね。あと横田進の『Acid Mt. Fuji(赤富士)』っていうアルバムも持ってる。1994年に出た作品なんだけど、当時はその存在を知らなくて、長いこと廃盤になってたのを誰かが再発してくれたんだ。最初は普通にBGMとして聴いてたら、そのうち気がつくと何度も聴き返すようになっていた。どういう構造になってるのか理解できなくて、それを解明しようと深みにハマっていってね。すごく興味深いよ。一度聴いただけで、あー、はいはい、そういうことねってわかっちゃう作品もあるけど、このアルバムはどこまでも謎に包まれてるし、作者が何をしようとしてるのか知りたくて、何度も聴き返してしまうんだ。

面白そうな音楽を常に探し回っている

──なるほど。あと、日本ではシティ・ポップと呼ばれている、濱田金吾とか大貫妙子の曲も入っていますね。

マック:僕は80年代に青春時代を過ごした人間なんで、いわゆるシティ・ポップを耳にすると、その80年代当時によく聴いていたサウンドを思い出すんだ。もちろん、80年代当時は日本の音楽に関する情報なんかアメリカには入ってこなかったわけで、今あの頃の日本で最先端だったポップを聴くと、自分が青春時代に親しんでいたサウンドの日本語バージョンを聴いてるみたいな不思議な感覚になる。で、やっぱり今言ったようなアーティストって、なかなかSpotifyでは見つからないから、主にコンピレーションで聴いてるね。『Pacific Breeze』っていう日本のシティ・ポップのコンピ盤を持ってるよ。それに、杏里のアルバムも気に入ってる。12歳になる僕の息子も、日本のシティ・ポップにハマってて一緒に聴いてるんだ(笑)。息子は80年代のアメリカン・ポップス、それこそマイケル・ジャクソンとかマドンナとかも聴いてるんだけど、彼からするとそれに似てるように聴こえるみたいだね。似てるけどちょっと違う感じの音っていうか。そんなふうに、自分が昔から好きで聴いてたサウンドの違うバージョンを発掘したみたいで面白い。できれば日本にいるうちに、アメリカでは入手不可能なレコードをなんとかゲットしたいところなんだけど、どこに行ったらいいかわからなくて(笑)。

──ああ、事前に知っていればオススメのCDを持ってきたのに……。

マック:昨日は日本のジャズのレコードを買ったんだ。日野皓正とか近藤等則とか。でも、昨日行ったレコード屋は、日本のジャズの品揃えがそんなに多くなかったんだよね。今日この後、時間があれば別のところに行ってみたい。アメリカで日本盤を手に入れるのは本当に難しいんだよ!

──峰厚介の曲もプレイリストに入ってましたし、ジャズもお好きなんですよね。

マック:父親がいわゆるジャズの王道であるマイルス・デイヴィスとか、スタン・ゲッツのレコードをよく聴いてたし、僕自身、学校の部活動でジャズのトランペットを吹いてたんだ。その頃はスタンダード・ジャズをやってて、大学になってからは、ジョン・コルトレーンみたいなものと並行して、フリー・ジャズとか実験的なジャズにも興味を持つようになった。90年代には、精力的にツアーを回っている時、ペンギン・ブックスが出してる分厚いジャズ・ガイドを移動中の車の中で読んで、新しい街に着いたらレコード屋に行って、ガイドの中にあったCDをチェックするっていう生活を送ってたよ(笑)。その流れもあって、90年代の後半に〈ウォブリー・レイル〉っていうフリー・ジャズのレーベルも立ち上げた。スティーヴ・レイシーとか、(ワダダ)レオ・スミスとか、スージー・イバラとか、ケン・ヴァンダーマークの作品を出してたんだ。そのレーベルは7〜8年くらい続けたんだけど、その後〈マージ〉のほうで忙しくなっちゃってさ。それでも、今言ったようなジャズ・ミュージシャンとの仕事を通じて、インプロヴィゼイションの世界に詳しくなった。もちろん、何と言っても日本在住で我らのプロデューサーでもあるジム・オルークの影響もある(笑)。ジムは即興音楽シーンへの造詣がものすごく深いからね。たしか2009年の来日時、ジムと坂田明のステージを観に行ったんだよ。なんて言ったっけ、日本の老舗ジャズ・クラブで……。

──ピットイン?

マック:そう、ピットインだ! 坂田さんのステージを生で観たのは初めてだったから、本当に感動したよ。

──意外な気もしつつ、実はYouTubeで昨今、日本のシティ・ポップや環境音楽が世界の人たちに再発見されているっていう話を聞きますから、あなたはレーベル・オーナーとしても、きちんとアンテナを張っているってことなのでしょうね。

マック:もともと自分たちでレーベルを始めたのも、音楽好きってところから始まってるし。メンタリティがもう、ひたすら音楽ファンなんだよ。どこかに面白そうな音楽はないか? って、常に探し回ってるんだ。

昔から続く地味な作業も大事

──では次に、そのレーベル・オーナーとして答えていただきたいんですが、最近の音楽業界の状況についてはどう見ていますか?

マック:まぁ、レーベル運営にはいつの時代にも苦労がつきものなんだけど、昔に比べて今のほうがより厳しい状況になっていることは間違いなくて……やっぱり、みんな昔みたいにレコードやCDを買わなくなったし、ダウンロードすらしなくなってきてるからね。ストリーミングで音楽を聴くのが主流の時代になってから、バンドやミュージシャンにとってはさらに厳しくなってきた感じがする。ただ、いつの時代にも良い音楽を作ってる人たちはいるわけで、そういう人たちの音楽が少しでも多くの人々の目に触れるよう、アーティストをサポートしていくのが僕たちの役目だと思ってるよ。やっぱり、時代の流れには逆らえないからね……流行にしろ、テクノロジーの変化にしろ。その変化し続ける時代に応じて、自分にできることをしていくしかないと思う。

──具体的な戦略などは何かありますか?

マック:スタッフ同士で常に話し合ってるし、こちらも今の時代に合わせて柔軟に対応しようとはしてる。ただ、新しい時代の波に乗っていくだけじゃなくて、昔から綿々と続いてる地味な作業を続けていくことも大事だったりするんだよ。それはたとえば、ラジオで曲をかけてもらったり、地道にツアーを回ったりっていう……それって今の時代からすると古くさいやり方なのかもしれないけど、実はそういう地道な努力こそがバンドを知ってもらうために最も大事なことなんだ。たしかに、今はSpotifyやApple Musicから自分の作品を聴いてもらえる機会は増えたかもしれない。けど、その収益は必ずしもバンドやアーティストに還元されるわけではないからね(苦笑)。だからこそ、インターネット以外にもバンドやアーティストを宣伝していくための方法を確保しておくことが大事だと思う。

──わかりました。では、これからの〈マージ〉の計画について教えてください。

マック:そうだな……いくつか新作のリリースが控えてるけど、みんなが知ってそうなバンドじゃなくて、あんまり知られてないであろうバンドを紹介したいね。まず、GaucheっていうワシントンD.C.出身のバンドのファーストを出す予定で、なかなか面白いバンドなんだよ。ちょっとニュー・ウェイヴっぽくて、パンクっぽいダンス・ミュージックで、B-52'sっぽい感じなんだ。あとはShoppingのメンバーがやってるバンドで、スコットランド出身のSacred Paws。UKからはIbibio Sound Machineっていうバンドも出る。ボーカルがナイジェリア出身で、ギターがガーナ出身っていう多国籍なグループで、これがまた最高。それから、Sneaksって知ってる? 女性アーティストなんだけど基本的にベースを弾いてて、たまにドラム・マシーンを演奏しながら唄ったりもする。ちょっとESGを彷彿させるような感じ。そうそう、Mike Krolの新譜も出るよ。うちから出すのは2枚目になるんだけど、めちゃくちゃパンクで、すごく良い曲を書くアーティストだ。いわゆるポップ・パンクみたいな感じかな。ディストーションのかかったボーカルを取り入れてて、ライブがまたいいんだよね。そのあたりが最新の動きで、まだ現時点では公には発表してないけど、来年になったらオーストラリアのCable Tiesってバンドも出す。女性2人に男性1人のグループで、これもノリとしてはパンクだな。そして、カナダのリトル・スクリームのアルバムも出たばかりで、ローレル・スプレンジェルメイヤーって女性がやってるんだけど、彼女も日本に来るんじゃなかったっけ? ローレルの夫はアーケイド・ファイアのリチャード・リード・パリーだから、リチャードのやってるクワイエット・リバー・オブ・ダストとして一緒にね。

──全部チェックさせていただきます。ちなみに、〈マージ〉から出してもいいと思う日本のバンドはいませんか?

マック:まぁ、僕とローラが気に入って、これは! と思うバンドがいたら、それは何としても出すと思うよ。

──期待してます。最後に、スーパーチャンクとしての今後の予定を教えてください。

マック:このツアーが終わった後は、今のところ何も予定してない。ドラマーのジョン(・ウースター)が、マウンテン・ゴーツやボブ・モールドのバックでも叩いていて、その両方とも来年には新作を出す予定だから、みんなのスケジュールを確認してからでないと何も決められないんだ(笑)。ジョンはたいてい今言ったどっちかのバンドでツアーに出てる状態なんだよ。ただまぁ、とりあえずいつも何かしらのプロジェクトは進行中さ。

──ボブ・モールドは、もう新作を出すことが決まってるんですか?

マック:詳しいスケジュールまではわからないけど、来年には予定してるはず。ジョンも駆り出されることになるだろう。

──ボブ、創作ペースが早いですね。

マック:たしかに。彼の中には大量の曲が溢れ返ってるんだろうな(笑)。

──じゃあ、前の作品について送った質問への回答が送られてくる前に、次の新作が出ちゃうかもしれませんね……。

マック:そうだね(笑)。

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