「士業」と連携の場 提案 第2部 模索する医師会 (6)新たな視点

「三士会」の会合に出席した村井さん(手前右)と佐伯さん(奥の列左から5人目)。職種の枠を越えた連携を模索している=2019年12月16日夜、宇都宮市明保野町

 ロの字形に置かれた机を12人の男女が囲む。2019年12月16日、宇都宮市内の県弁護士会館。県弁護士会、県司法書士会、県社会福祉士会の関係者らが集い、成年後見制度の啓発などを話し合う「三士会」の会合に、医師の姿があった。

 「(患者の)地域生活を支える上で、お金や成年後見といったことでどうしていいか分からず、止まってしまうことがある」

 宇都宮市にある村井クリニック院長の村井邦彦(むらいくにひこ)さん(49)が、職種を超えた連携の場づくりを訴えた。訪問診療などで患者の生活プランを考える際、制度面での課題をどうスムーズに解決するか、懸念を感じていた。

 「既存のものを活用してもいい」

 「参加者は地域の社会資源に詳しい者がいいのか」

 他の専門職からも意見が出され、方向性を議論していく。

 村井さんは、宇都宮市医師会の「在宅医療・社会支援部」の部長として会合に初参加した。

 孤立や貧困など「健康の社会的決定要因(SDH)」に医療従事者が着目し、社会資源につなぐ「社会的処方」。社会支援部は19年6月の設立以降、この取り組みを推進しようと活動を続けている。

 SDHへの有効な手だてを模索する上で、弁護士や司法書士など「士業」の力を借りたい-。村井さんは「定期的に連携できる形を考えないと、問題ばかりで解決しない」と指摘する。

   ♢   ♢

 社会支援部と三士会とのつなぎ役が、鹿沼市に事務所を構える司法書士佐伯祐子(さえきゆうこ)さんだ。三士会の会合の約3週間前、社会支援部の第5回部会に村井さんから招かれていた。

 病気や障害などで判断能力が不十分な人を支援する成年後見制度。佐伯さんは制度ができた約20年前から、後見関連の仕事を続けてきた。制度を推進する「成年後見センター・リーガルサポートとちぎ支部」には設立当初から携わり、支部長も務めた。

 数多くの当事者と向き合う中、制度に対する医師の理解不足を実感するようになった。その代表が「医療同意」についてだという。

 後見人の業務には医療行為の決定や同意は含まれていないが「『後見人ならできるはずだ』と迫る医師もいる」。呼吸が止まった患者に対して、気管挿管をするかどうか決めるよう求められたこともあった。「医療の専門家ではない私たちに、決められることではない」と話す。

 「なぜこの案件で成年後見制度を利用するのか」と疑問に思うこともある。「患者の支援策を考える場に、後見制度の実務を知っている人がいないとまずい」。医療との連携は願ってもない申し出だった。

   ♢   ♢

 社会支援部と三士会が顔を合わせたことで、一つの進展があった。

 宇都宮市内で開かれている医療・介護の関係者による連携会議に、法律関係の専門職が加われないか、検討することが決まった。

 佐伯さんは三士会の場で呼び掛けた。「まずはやってみる」。新たな支援の形ができるか、試行錯誤が続く。

© 株式会社下野新聞社