第33回「心の中に平成中期のギャルにいてもらっている」

時代、振り返っていますか?こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。

自分が多感だった頃に衝撃を受けたことは、何歳になっても忘れられないものです。

2000年当時、テレビでヤマンバギャルが浜崎あゆみの『SEASONS』の歌詞についてインタビューを受けている様子が放送されました。たぶん夏だったと思います。そのギャルは「あゆは〜、“今日が楽しいと明日もきっと楽しい”って言ってくれるから好き!」と言っていました。

ご存知ですか、『SEASONS』。これ、全然そういう歌詞じゃないんですよね。

この直後に続く「そんな日々が続いてくそう思っていたあの頃」というおそらく重要すぎるであろう歌詞が、初めから存在をしていなかったかのように受け取っている姿は、多感な時期にあゆを聴いては、わかるわかるよ……なんて思っていた学生時代のわたしはものすごく衝撃でした。

そして、その無視具合が最高だなと思いました。

きっとインタビューで話していた彼女は、都合の悪いことを無視しようなんて気持ちは少しもなくて、ただ純粋に自然な流れとしてそう受け取ったのだろうと思うのです。だってすごく嬉しそうに笑顔だったから。これは皮肉ではなくてとても素敵でした。

……とても、というか……もう、すげー素敵だったし! どちゃくそ羨ましかったし、わたしもそういうマインドで生きたいと思ったし、そのギャルの人生が一生“今日が楽しいと明日も楽しい”って思っていられるようにあってくれ、幸せでいてくれ頼むよー!!!!!!

いや、本当にそう思ったのです。自分にはないものを持っている人へ自己投影をして、気持ちを委ねることはとても癒されるから。

平成中期のギャル文化はわたしの憂鬱を楽にしました。だから現在に降臨してほしいし、お金を払うから、わたしが口をほぼあけない早口の話し方で暗いことばかり言おうがおかまいなしに「うける〜」って明るく聞いていてくれないだろうか、と思います。なんならメンタルトレーニングをしてほしい。先日なんて、そういった専門ガールズバーがないのか検索をしたくらいです。

語彙力はなければないほど感情へダイレクトに届いて救いになる日もあります。いろんな感情をすべて同じ単語で片付けてほしいし、わたしの言うことなんて大まかにザクっと受け取って、「うける〜」でどんどん流していってほしい。

一方、わたしは、自分の空っぽを埋めるために本を読み続け、空っぽのぶんだけ言葉を詰め込んでしまったので、会話に余計な装飾を加えたり、わかりやすいように比喩を差し込んだり、あるいは文字数武装をしてしまったり、気持ちよりも言葉が先に立って、伝えることに関して自分の感情を優位に立たせてあげることが難しくなってしまいました。こと寒い時期に沸き起こる感情については、言葉を尽くすほど伝わる温度が下がっていく気がしてなりません。

もう毎日が「生きるの大変すぎる助けてくれ…」というような気持ちだけれども、せめて平成中期ギャルに心にいてもらって、「生きるの大変すぎじゃね?やば(笑)」っていうくらいのマインドでいたいものです。

ということをまた切々と書いてしまった…無理〜、アゲ〜!

Aico Narumiya Profile

朗読詩人。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。2017年に書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』刊行(書肆侃侃房)。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。ニュースサイト『TABLO』『EX大衆web』でも連載中。2019年7月、詩集『伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている』刊行(皓星社)。

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