貴方は知っているか? 加山雄三が演じた実写版ブラック・ジャック!

1981年 1月8日 テレビ朝日のドラマ「加山雄三のブラック・ジャック」の第1回が放送された日

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手塚治虫のブラック・ジャック、実写ドラマの主演は加山雄三

「この世に果たしてロマンはあるか。人生を彩る愛はあるか。」そんなクールなキャッチコピーが掲げられたドラマ『加山雄三のブラック・ジャック』が始まったのは、1981年が明けて間もない1月8日のことだった。原作は週刊少年チャンピオンで連載されていた手塚治虫のヒット漫画。『鉄腕アトム』に間に合わなかった世代にとっては “漫画の神様” と呼ばれる手塚の代表作として、いの一番に挙げられる作品だろう。

当時の加山は芸能生活20周年を迎え、記念映画として10年ぶりに復活した『帰ってきた若大将』の撮影を終え、2月の公開を間近に控えていた頃。チャンピオンの連載を読みながら単行本も買い揃えていた『ブラック・ジャック』好きにして見れば、実写ドラマが放送されるというニュースにもかなり驚かされたが、主演が加山雄三と聞いて驚きが倍になったのを憶えている。加山にしても節目の年における新たなチャレンジだったろうか。ちなみにナレーションは “若大将” の盟友、“青大将” こと田中邦衛が担当した。

ちなみに映画版の主演は宍戸錠、何故?

タイトルの『加山雄三のブラック・ジャック』は実に大仰な感じで、少し前に観た映画『江戸川乱歩の陰獣』のイメージが重なる。もっともあちらは原作者の名前だが。そういえば女性ダンサーたちが踊り狂う謎のオープニングはフィルムの質感とも相俟って、同じテレ朝の『土曜ワイド劇場』枠で放映されていた2時間ドラマの乱歩シリーズを想起させた。天知茂が演じたニヒルな明智小五郎が懐かしい。『パノラマ島奇譚』が原作の『天国と地獄の美女』は神回として知られる。天知の明智小五郎も加山の若大将に劣らぬ当り役であった。

もっとも『ブラック・ジャック』の実写版は初めてではなかった。1977年に原作漫画の「春一番」というエピソードが大林宣彦監督によって東宝で映画化され、『瞳の中の訪問者』のタイトルで封切られている。主演は宍戸錠。エースのジョーから若大将への継投となったわけだが、ふたりとも自分が抱く “ブラック・ジャック” のイメージとはかなりかけ離れていたから、何故? という想いを拭えなかったのはたしかだ。といっても誰なら適任かというのも思いつかなかったのだけれども…。映画版も手がけていたジェームス三木の脚本は、氏が加山主演のホームドラマ『かたぐるま』を担当していたこともあっての起用とおぼしい。

原作とは異なる設定、ゲストの俳優は実力派揃い

加山版のドラマは原作とは少し設定が異なり、普段は銀座で画廊を経営する青年実業家の坂東次郎の姿で、天才外科医のブラック・ジャックは変身した裏の顔ということになっていた。となるとあの頬の傷は… などと疑問を持ってはいけない。あくまでもフィクションなのだから。

全13話のうち、血友病をテーマにした第8話「血がとまらない」は原作の漫画が単行本から削除されたのと同様に封印回となり、後にドラマが DVD化された際にも未収録となってしまったのは残念。その回は真行寺君枝がゲストであったが、全体を見渡すと、池上季実子、村野武範、前田吟、江波杏子ら、ゲスト俳優の顔ぶれも興味深い。

劇伴は菅野光亮、エンディングはヒカシュー「ガラスのダンス」

そして、ドラマに異質な雰囲気をもたらしていた大きな要素が音楽である。名作映画『砂の器』の美しいテーマ曲を作った菅野光亮の劇伴もヒューマニズム溢れる作品世界を巧みに表現していたが、なんといってもエンディングテーマに使われたヒカシューの「ガラスのダンス」が強烈な印象を残す。1979年に「20世紀の終りに」でデビューし、ニューウェイヴ系のテクノポップバンドとして注目を集めた彼らの4枚目のシングルにあたり、巻上公一の朗々としたヴォーカルが暗めのトーンのドラマ本編とのよきコントラストとなっていた。

ヒカシューでシンセサイザーとメロトロンを担当した井上誠は『ゴジラ』をはじめとする映画音楽家・伊福部昭の研究者としても知られるが、実はカヤマニア(=加山雄三マニア)でもあり、若大将シリーズのサントラCD『若大将トラックス』(1995年)などにも参画していたのだった。

テクノ繋がりということでは、最近になって DJ が紹介したことで中古レコードの価格が一時期高騰した加山唯一のテクノ歌謡「メガロポリス・サンシャイン」も同じ頃の作品。ドラマが始まる直前にリリースされた当時の最新アルバム『愛する時は今』の収録曲だったから、まさに加山とテクノが最も接近していた時期ということになる。

単なる偶然? 中条きよしとも因縁ある「ブラックジャック」

最後に全く関係のない話だが、ドラマの第2話「春一番」にゲスト出演した中条きよしは1979年に「ブラックジャック」という曲をリリースしていた。これは単なる偶然であろうが、なんとなく因縁が感じられなくもない。そう考えると、ブラック・ジャック役に適していたのは中条だったのではないかと不意に思えてきた。このドラマには出てこない宿命のライバル “Dr.キリコ” 役でも合っていたかも。ちなみに中条が歌う「ブラックジャック」はラテン風味のディスコ歌謡でなかなかの佳曲。中条版『ブラック・ジャック』実現の折にはぜひ主題歌に!

カタリベ: 鈴木啓之