日本のキャッシュレスは、もっとシンプルにできる

今回もストックホルムの話。キャッシュレスの先進国として知られるスウェーデン。

その首都であるストックホルムではクレジットカードやデビットカードがないと生活するのが非常に困難だ。

閉店5分後にはお店の人全員が退店?

スウェーデンはキャッシュレス化が進んでおり、市中のほとんどのお店では「Cash-Free」の文字が掲げられている。文字通り現金を取り扱っていない。ファストフード店はキオスク端末が並んでいて、店内で事前に注文と決済を終えてからカウンターに進むところが多い。原則としてカウンターは商品を渡す場所として機能しており、現金での決済は観光客など一部の人が差し出す以外にほとんど見かけない。

カウンターの作りもシンプル。例えば中心部にある書店では書籍のバーコードを読み取るリーダーと、それを店員が確認するためのディスプレイ、そしてスウェーデン国民の主な決済手段であるカード決済機が置かれているだけ。市中の店舗でキャッシャーが置いてあることは稀だ。

ストックホルム市内にある書店のレジはカードリーダーだけだった(Photo by Junya Suzuki)

日本では決済の際、クレジットカードやデビットカードを店員に渡すことが多いが、海外のすでにICチップ化が進んでいる国では基本的には客自らがリーダーに挿入し、非接触決済対応のカードであれば端末に自らかざす。店員はその様子を見守り、承認されるのを確認するだけだ。

そして現金を取り扱わないこともあり、ストックホルムの商店は店じまいもあっという間だ。週末ともなると閉店時間が16時、17時、18時と早いのだが、現金を取り扱っていないためレジを締める必要がなく、「閉店5分後には電気が消えて施錠して全員が退店していることも珍しくない」らいしい。案内してくれた現地在住の日本人が話してくれた。

こんなところまでキャッシュレス

スウェーデンのキャッシュレスは徹底している。それは「トイレ」も例外ではない。

欧州ではひと昔前までトイレの前にコインを受け取る“門番”がいたが、ここでは今ではキャッシュレス化されている。もともと公衆トイレは有料であることが少なくなかったが、最近ではドアの一つひとつにカード決済機が付けられている。ストックホルムでは市中でトイレに行くにもクレジットカード、デビットカードが欠かせない。

スウェーデンでこうしたキャッシュレス化が進んだ背景の詳細については別の機会で取り上げるが、大まかにいうとその理由は「犯罪の防止」「業務効率の改善」「徴税の公正化」の3つ。1990年代に始まった給与の口座振込を皮切りに、20年以上かけて今日のキャッシュレス化を推進してきた。

スウェーデンは国全体で日本の東京都ほどの人口しかない。

限られた労働力をどう効率化させるか、高福祉の裏返しとしてある徴税の公正化をどう行うかという課題意識とともに、現金を取り扱うことによるコスト削減やリスク、負担軽減を追求した結果、実現したものだ。

日本のキャッシュレス環境はとても複雑

一方で、日本。

下の写真は2017年に撮影したひとコマだ。

伊丹空港の第1ターミナルと第2ターミナルの間にあった書店のレジカウンターで、クレジットカードの暗証番号を押すキーパッドを中央にして、その左右を電子マネーの読み取り機が2台ずつ陣取っている。

普段キャッシュレス決済に慣れている私ですら、この光景には面食らった。

交通系電子マネーで決済しようとして、5秒ほど手を止め、息を止め迷ってしまったことを今でも鮮明に思い出す。左からイオン系の「WAON」、関西私鉄系の「PiTaPa」、キーパッドを挟んでPiTaPaを除く「交通系IC」「iD」「QUICPay」、そして「楽天Edy」と並んでいる。方式としては全てFeliCaなのだが、なぜこうなってしまったのだろうか。

ちなみに伊丹空港は2020年の全面改装終了を前に、一部がリニューアルオープンしている。昨年11月に訪れたが、電子マネーの決済機は3台がカウンターに鎮座していた。海外でも非接触決済は広がっているが、主流のNFC方式ではこのような光景は見かけない。

また日本では電子マネーで決済する際はブランド名をあらかじめ店員に伝えなければいけないケースがほとんどだが、海外では「クレジットで」と伝えるだけで、どのブランドのカードであってもNFCでの非接触決済が可能だ。

もちろん決済にまつわる環境は国によって異なり、その背景も複雑だ。

しかし、生活者や販売店の目線でいえば決済端末は一つあれば十分だし、その仕様も統一されている方がいい。生活者はその方がサービス面だけで自分が使うブランドを選択できるし、販売店も決済環境を用意するコストをセーブできる。

昨年、日本ではQRコード決済が話題となったが、やはり生活者は「○○Payで」と言わないといけないし、販売店もレジで選択を求められる。キャッシュレスの大義を考えれば、大きな店も小さな店も、生活者も販売店ももっとシンプルにキャッシュレスを利用できた方が幸せなはずだ。

次回も引き続きスウェーデンの話題。現地で当たり前にように使われている、スマホ送金についてとりあげたい。

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