社説(1/8):ゴーン被告逃亡/保釈制度の見直しが必要だ

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 特別背任罪などで起訴され、保釈中だった日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告がレバノンに逃亡した事件は、次第に経緯が明らかになってきた。前代未聞の逃亡劇は本人が大型ケースに身を隠し、関西空港で出国検査や荷物検査をすり抜けたとみられる。不正出国の疑いが濃い。

 4月に始まる予定だった公判は見通しが立たず、真相解明は遠のいた。日本の刑事司法をないがしろにし、法を踏みにじった逃亡は到底容認できる行為ではない。

 結果的に違法な出国を許してしまった法務省入国管理局(入管)の責任も問われる。出入国管理体制に不備はなかったのか。徹底的に検証し、原因の究明とともに対策を講じる必要がある。

 ゴーン被告は逃亡した後、声明を発表し「裁きから逃れたのではなく、不正と政治的迫害から逃れた」と強調している。レバノンのベイルートできょう、記者会見する予定だ。日本の司法制度や日産関係者を批判し、逃亡を正当化するとみられる。

 しかし、本来なら裁判で自らの主張を述べ、判断を仰ぐのが筋だろう。ゴーン被告は「私は無実であり、法廷で名誉を守る」と話していた。東京地検が日産関係者と交わした司法取引は違法だとも訴えていた。

 無実を証明する権利を放棄したとも言える逃亡は、裁判から逃れ、刑罰を免れようとしたのではないか。そう勘ぐられても仕方がない。

 刑事訴訟法は一部の軽微な罪などを除き、公判期日に被告本人が裁判所に出頭しなければ開廷できないと規定している。ゴーン被告が日本に戻らない限り公判は開けず、刑事責任の追及は事実上不可能となる。

 日本はレバノンと犯罪人引渡条約を結んでおらず、外交ルートを通じて身柄の引き渡しを求めるほかない。だがレバノン国籍を持ち、カリスマ経営者として名をはせた「英雄」の送還にレバノン政府が応じる可能性は低いという。

 政府はレバノン政府と粘り強く交渉し、ゴーン被告の身柄の引き渡し実現に向けて努力を続けてほしい。また、ゴーン被告の発言は国際的にも注目される。政府は日本の司法制度について理解を求める情報発信も求められる。

 ゴーン被告の逃亡は改めて保釈制度を巡る議論に一石を投じることにもなった。

 日本の刑事司法は罪を認めないと勾留が長引く「人質司法」と国内外から批判されてきた。それが裁判員裁判の導入などで見直され、近年は保釈を認める流れが強まっている。今回の逃亡でその流れを後退させてはなるまい。

 一方で、保釈中の被告らの再犯や逃走が増えている。法務省は対策強化の法改正を検討するという。被告らの人権と監視のバランスがとれた保釈制度はどうあるべきか、議論を深めたい。