<隠れた名盤> 川中美幸『おかあちゃんへ~少しサヨナラ~』 静かに語りかける歌声に目頭が熱くなる

川中美幸『おかあちゃんへ~少しサヨナラ~』

 最愛の母の三回忌に合わせて発売された企画アルバム。ジャケットや歌詞カード内の仲睦まじい写真から私的な作品と思われがちだが、実際には普遍的に楽しめる。全体は、新録音の6曲を含め歌唱した16曲に、9編のナレーションを挟むという構成で、歌の合間の川中の話し声がささやかな幸福感を醸し出している。

 本作には、グレープ『無縁坂』、山口百恵『秋桜』、すぎもとまさと『吾亦紅』、二葉百合子『岸壁の母』など、母をテーマにしたカバーも6曲収録。川中の思う母親像からか、状況の異なるどの歌からも母の無償の愛が強く感じられる。特にオリジナル曲が聴きどころ。『おんなの一生~汗の花~』は、働きづめの母を労わるような人気曲だが、このアコースティック新録版では、「お母ちゃん…」と静かに語りかける歌声が、空にも響くようで目頭を熱くさせる。

 他にも、上京時の想い出をつづった『花ある人生』や、母への感謝をつづった三木たかし作曲の大作バラード『かあさんへ』など、いつも以上に柔らかな歌声だが感極まった歌声が目立っている。それは、やはり「母」への愛情の深さゆえだろう。

 ラストは、天国の母からのメッセージを代読したような穏やかな曲調の『少しサヨナラ』。しんみりとするが聴き終わると笑顔にもなれる。精一杯の愛情を注げば、たとえ終わりを迎えても悔いは残らないと、本作から教えられるはず。

(テイチク・2800円+税)=臼井孝

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