<大ヒット盤> 水樹奈々『CANNONBALL RUNNING』 アニメファン困惑?の、偏りない良作

水樹奈々『CANNONBALL RUNNING』

 約3年ぶりとなるオリジナル。近年は、オーケストラとの共演やミュージカルなど幅広く活躍しているが、本作はポップス系中心ながら非常に幅広く、一人でTV番組の『UTAGE!』に出突っ張りになったような画が浮かぶ。

 全17曲中、アニメやゲーム関連の既発売6曲は、歌唱難易度を従来より上げつつも、基本的には得意な疾走感のあるナンバー。特に『NEVER SURRENDER』は、彼女の緩急ある歌唱と多層的な演奏が呼応し合って、ベテランの風格さえ漂う。

 注目はそれ以外の新曲だ。ピアノロック系の『カルペディエム』も、ゴージャスなダンスポップの『Love Fight!』も、オールディーズ風の『Knock U down』も、オシャレな90年代風ガールポップの『Sweet Dealer』も、若手女性シンガーソングライターが歌いそうな『マーガレット』も、すべて一人で、時にクールに、時にキュートに歌いこなしているのだ。つまり、ヒゲダンと倖田來未と竹内まりやとICEと奥華子を自己流に解釈したような感じで、むしろ、アニメのファンが困惑しないか心配なほど(笑)。言い換えれば、それだけ偏りのない良作なのだ。特に、流麗なピアノが全編に取り入れられたラブソングの『Light Births Shadow』は、彼女の艶やかな歌声を活かしており、今後の新機軸になりそうな気がする。

 まさにタイトル通り高速で駆け抜けるような意欲作。本作を聴けば、懸命に頑張っている人を、冷めて見過ごすことなど出来なくなるはず。

(キング・通常盤 3000円+税)=臼井孝

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