選手権・4強が取り組む「クラブチーム化」とは? 旧態依然では勝てない高校サッカー

激闘が繰り広げられている第98回高校サッカー選手権大会も残すところあと3試合、準決勝と決勝を残すのみとなった。

今大会のトレンドとして注目される「中高一貫」は、ベスト4に進出した4校すべてに当てはまる。

ただしその取り組み方は各校それぞれ。高校サッカーの強豪が「クラブチーム化」していく時代の流れと、その奥行きの深さとは?

(文=大島和人、写真=Getty Images)

「チーム青森山田」に存在する意外な凄みとは?

第98回高校サッカー選手権大会の明らかなトレンドは「中高一貫」だ。ベスト4に勝ち残ったチームはすべて付属中学校、もしくは系列のクラブチームを強化している。

★4校の系列関係(U-18/U-15)
青森山田高校(青森)/青森山田中学
帝京長岡高校(新潟) /長岡ジュニアユースフットボールクラブ(長岡JYFC)
矢板中央高校(栃木) /矢板SC
静岡学園高校(静岡) /静岡学園中学

高校サッカーの強豪が「クラブチーム化」していく流れは止まらない。施設を共有できる、戸惑わず高校サッカーに入れる、連携が上がる――。そういった一貫化のメリットは間違いない。選手権を観察するとそこにとどまらないクラブ化のメリットを感じる。他競技でも付属中からの強化体制を整備する例は増えているが、サッカー界はその奥行きが深い。

青森山田は前回大会の優勝校。高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2019でのファイナルも名古屋グランパスU-18を下して制している。人材がJリーグの育成組織に集中する昨今、青森山田はJを上回る戦績を残し、人材をコンスタントにプロクラブに送り出している。

準々決勝の先発を見ると浦和レッズに内定したMF武田英寿を筆頭に、青森山田中OBが4人いた。しかしそういう次元でない凄みが「チーム青森山田」にはある。特筆するべきは指導スタッフの厚みだ。

選手権は約2週間で最大6試合をこなすハードな大会。強烈な難所は中0日で開催される1月3日の3回戦だろう。

チームスタッフの作業は膨大だ。例えば選手を速やかに休ませ、治療やマッサージなどの必要なケアも施さなければならない。言うまでもないが、次戦への戦術的な準備も大切になる。

相手の分析、情報の整理は週1試合のJリーグでさえ、複数のプロフェッショナルが膨大な時間を費やして行う作業。選手権期間中の合宿生活は選手の生活面にも目を向けねばならず、出場校の指導者にかかる負荷は生半可なものではない。

各チームの監督として経験を積んだ「トップ」が集結

戦術的な準備といっても自分たちにベクトルを向けた反省、次の対戦相手を攻略する準備の両面がある。黒田剛監督は中0日の準備をこう説明していた。

「ミーティング資料をしっかり作れるように、スタッフを多く配置しています。私は試合の反省点がメインで、夕食後に30分くらいミーティングをします。他の会場でビデオを撮っている者がしっかり分析しながら、パソコンで編集しながら資料を作る。寝る前に資料を渡して、読みながら寝て、朝一でミーティングをする。色んなコーチ陣がよく機能しているのは、ここ数年の良さです」

連戦の選手に大量の映像、資料を見せても消化不良を起こすだけで、コンディションを考えてもむしろ悪影響となる。コーチ陣は試合からエッセンスを抽出して、わかりやすく再構成し、編集した映像や紙の資料として選手に見せねばならない。青森山田は黒田監督も含めた複数のスタッフでその作業をこなす。

青森山田中は全国中学校サッカー大会(全中)の決勝に6年連続で出場している強豪だ。またセカンドチームである青森山田高校セカンドはプレミアより一つ下のカテゴリーであるプリンスリーグ東北を制している。つまり青森山田の二軍はベガルタ仙台やモンテディオ山形のU-18チームや、選手権8強の仙台育英高校より強い。

青森山田は各チームの監督として経験を積んだ「トップ」が、一致団結して試合前の準備をする。黒田監督はこう胸を張る。

「お手伝いレベルのコーチでなく、高いレベルでサッカーを議論できる目と感覚を持つ指導者が教え子の中で育ってきた。全中準優勝の監督、プリンス東北の優勝監督と、トップトップでやれる奴が4人くらい揃っている」

強豪校の監督は校長、教頭などの重責を担うケースが多く、そうなれば授業や部活動以外にも時間を費やさねばならない。しかも青森山田の部員数は185人。監督一人がすべてを背負うような体制はそもそも無理がある。

中高のスタッフ共有は青森山田に限った現象ではない。神村学園(鹿児島)は1回戦で一昨年の優勝校・前橋育英を倒した。この試合に先発した11人のうち9人が付属中出身で、青森山田より「一貫度」は高い。

有村圭一郎監督とともに今大会のベンチに入っていたのが竹元真樹総監督。竹元氏は第85回大会で初出場ながらベスト4入りした監督で、現在は中等部の監督も務めている。

栢野裕一コーチはこう述べる。

「中高は同じグラウンドを半分ずつに分けてやっています。中等部はシュートだったりドリブルだったり、個に特化したところを指導しています。高校になってから有村が戦術的な要素を入れる6年教育です。中学は『結果より育成』で常に考えています」

神村学園の中3世代はU-15代表のMF大迫塁、鹿児島県国体選抜のFW福田師王と有望なタレントが揃っている。2人はプリンスリーグ九州U-18のプレーも経験し、出場資格さえあれば高等部でも戦力となるレベルだ。

12月下旬には群馬県内で高円宮杯 JFA 全日本U-15サッカー選手権大会が開催され、そこに彼らも出場していた。有村監督によると前橋育英の3バックを読み切って準備した背景には、中等部スタッフが大会中に行ったスカウティングがあったという。

中学生年代は各々の武器を磨くべき時期

帝京長岡は「U-6(幼稚園年代)」からの一貫体制のクラブを持ち、その長岡JYFCのOBが主力だ。現高3世代は逸材が揃っており、FW晴山岬、MF谷内田哲平、DF吉田晴稀と3人の長岡JYFC出身者がJクラブに内定している。谷口哲朗・現総監督がまず高校の監督へ就任し、帝京高校の同級生である西田勝彦氏を誘って長岡JYFCを立ち上げた。ここも古沢徹監督を含めた集団指導体制を採っている。

ベスト8入りした昌平(埼玉)も、2012年に傘下のクラブチーム「FC LAVIDA(ラヴィーダ)」を立ち上げた。今大会はMF小川優介、FW小見洋太といったラヴィーダOBが活躍していた。

両チームは高校生が16時から、中学生は18時半からと同じグラウンドを共有して練習を行っている。藤島崇之監督はこう口にする。

「ウチのスタッフがみんなラヴィーダのスタッフを兼ねています。小川とか小見もラヴィーダ出身ですけど、次年度以降はちょっと違うタイプ、更にすごいのがいる。(ラヴィーダの選手が占める割合は)間違いなく上がっていくと思います」

ラヴィーダは2019年夏の日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会でJリーグの育成組織に伍し、全国のベスト8に進出。U-15日本代表候補にも選手を送り込んでいる。代表は藤島監督の父であり元日本代表の信雄氏で、村松明人コーチと関隆倫コーチは習志野高校のチームメイトだ。神村学園と同様に勝利と同じく育成にこだわって活動している。藤島監督は言う。

「高校はチームとしてグループとしてのうまさを発揮できる状況ができるので、中学生年代は逆にいえば個にフォーカスする。あとは攻守の切り替えの基本、一緒にペアを組む守備の関係性、コミュニケーションも大切です」

神村学園、昌平と高校は緻密な戦術を実践しているチームだ。ただし中学生年代は違う指導法、ゲームモデルを採用している。中学生年代は大人と同じサッカーをさせるべきでなく、「挑戦」「仕掛け」にこだわって各々の武器を磨いたほうがいい時期。目先の勝負でなく選手の仕込みにしっかり手間をかけることで、選手の可能性は広がる。

結果を出し、プロを輩出する。総力戦を要求される時代へ

とはいえ、単に選手を育てればいいというわけではない。「昇格」するかどうかは選手や家族の自由意志だ。例えば逸材揃いだった明徳義塾中学軟式野球部の現高1世代は大量に他校へ進学し、野球界で大きな話題になった。

高校が結果を出ための手段として中学生年代を整備する――。一見するとそういう構図だが、実は逆の構図もある。藤島監督は述べる。

「Jクラブから声のかかる選手もいます。昌平が選んでもらえるチームになりたい」

中学生年代の逸材を逃さない「手段」だとしても、高校が結果を出し、国内外のプロや有力大学に選手を送り出さなければならない。中高の一貫体制、部活のクラブ化にはそんなシビアさもある。

選手権の歴史を見れば、多くの名将がしのぎを削ってきた。一人のボスが年功序列でコーチ、選手を従えるのが体育会の組織図だったといっていい。一方で今年度の選手権を見ると監督より年長の総監督がいたり、逆にコーチが実質的な采配を振るっていたりと、分権体制を採っているチームが多かった。

現在の高校サッカーは監督という「個」で太刀打ちできないほど高度化した。部活の形は取っていても、強化の本質はJリーグの育成組織と同じだ。U-15やセカンド、サードチームといった縦横の広がりを持ち、複数のプロフェッショナルが連携しながら子どもと関わっていく体制が求められる。人事や資金の配分といった経営も大切で、一部の学校はスポンサーの獲得さえ行っている。

試合を戦う前に、選手から選ばれるためのクラブ作り競争がある。高校サッカーはそんな総力戦を要求される時代だ。

<了>

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