英国で見た「入院を防ぐ」ための仕組み 【2020新年スペシャル】佐々木淳「英国徇行記」より

MEDIAN TALKS 編集部です。
2020年新年企画、外部配信開始記念企画としまして、通常の記事、コラムと並行しまして、これまでオリジナルサイトで掲載されてきたコラム記事の中から反響が大きかったものをピックアップ、スペシャルとしてお届けいたします。
今回も佐々木淳医師の英国視察報告の中からお届けいたします。


英国では「入院を避ける」ための仕組みが充実していた。

 英国ではGP(General Practitioner/かかりつけの家庭医)が健康問題の90~95%に対応している。従って、病院の役割は極めて限定的だ。

特に入院は、社会コストが高いこと、(特に高齢者や終末期の患者においては)患者のADLやQOLを下げること、そして患者本人も入院治療を望まないケースが多いことから、「なるべく入院せずにコミュニティでケアする」という方向性が明確になっている。そして、在宅でのケアを希望する患者は、在宅で最期まで支援できる仕組みになってきている。

 日本にも「ときどき入院、ほぼ在宅」というスローガンはある。

しかし実際には、本人や家族の意向に反して、休日や夜間の体調変化に主治医が対応できずに病院受診となり、そのまま入院になってしまうケース、医師の医療対応力や多職種の在宅支援力の不足により入院が選択されてしまうケース、明らかに看取りの段階なのに最終段階で救急搬送されてしまうケースなど、本来であればコミュニティでケアを継続すべきケースが入院になってしまうことが少なくない。

「何かあればすぐ入院」というのが日本の地域医療の実情ではないかと思う。

 これは、日本のかかりつけ医はちゃんと仕事をしていないということなのか。

 

「入院を避ける」ための2段階

 

英国では「入院を避ける」ための仕組みが2段階で存在する。

1つは、GP(かかりつけ家庭医)の存在。全ての国民はかかりつけのクリニックを持ち、基本的にそこで日々の健康管理を行う。予防的なケアや、生活習慣病の重症化予防などに、その人の個性や生活背景・家族関係なども熟知したかかりつけ医が伴走してくれる。

日本では、多くの患者は、専門医を主治医として選択する。かかりつけ医を持たない人も多い。定期的に受診をして、特定の疾患や臓器はきちんと診てもらっているけれども、総合的な健康管理が十分にできていないという人は少なくない。

2つめは、GPの対応範囲を超える在宅ケアをバックアップする仕組み。たとえば、日本では、休日や夜間に急変した場合、かかりつけ医に電話をして、つながらなければ救急車を呼ぶしかない。かかりつけ医を担う開業医の多くは、ソロプラクティス(医師が一人だけの診療所)。24時間365日、電話がつながる状況にしておけ、というほうが無理というもの。

一方、英国では例え医師であったとしても、ライフワークバランスを大切にする。休日と夜間はしっかりと休む。自分たちが幸せな生活が送れていなければ、患者を幸せにできるはずがない。これはNHSのコンセプトでもある。

しかし、GPクリニックの多くはチームプラクティス(複数医師が勤務する診療所)、平均5名のGPが勤務している。従って、かかりつけ医が休みでも、クリニックの他の誰かが対応できる。

もし、GPクリニックの誰も対応できない時間帯であっても、時間外対応を専門としているGPのチームが対応してくれる。「誰にもつながらない」ということはないのだ。

 もし、GPの対応範囲を超えるような急変の場合、それでも病院に行かなければならない、ということはない。病院の緊急対応チームが在宅にアウトリーチし、自宅で急性期のケア(診断・治療)を行う。例えば肺炎や尿路感染症などの細菌感染の治療、うっ血性心不全の増悪、慢性呼吸不全の増悪など、在宅でケアを継続できる。このプロセスはGPの監督下で行われ、徐々に病院の緊急対応チームから、地域のチームへとシフトしていく。

参考:

もし、人生の最終段階にあり、専門的な緩和ケアが必要な場合、本人が在宅での療養継続を希望すれば、ホスピスのコミュニティケアチームが在宅にアウトリーチし、自宅で専門性の高いケア(緩和医療・サポーティブケア)を提供する。もちろんGPをはじめとする地域のチームや、自治体の福祉系サービスとも連携する。

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