宮月新「シグナル100」 - 見終わった後の印象は同じ

リズミカルで、エンターテイメント感を強く

――映画化に至った経緯を伺えますか。

宮月:連載を終了してしばらくしてからお話を頂いたのですが、実際に動き出したのはそこからしばらく経ってからでした。

――人間の極限状態を描かれている壮絶な作品なので映像化も難しそうですね。

宮月:そうですね。僕は漫画をつくるときに、死んでいくシーン・暴力的な部分はねちっこく描かないようにしていたんです。そこが映画ではどういう風に描いているのか、楽しみでもありちょっと不安もありました。そんな中、竹葉(リサ)監督はリズミカルで、エンターテイメント感を強く作り上げてくださっていて、原作の描き方を拾ってくださったと感じました。主題は他にあるということに気づいてくれて安心しました。

――確かに派手で印象には残りますが、それぞれそんなに長くないですね。そこよりは心理描写に力を入れていて。

宮月:そうですね。

――画面の色彩も綺麗でした。

宮月:そこも監督のセンスが光っている部分だと思います。作品にすごくマッチしていて、嫌な感じがしないように思います。現場を見に行かせていただいたときも結構細かくシーンの撮り直しをされていて、こだわっていただけているんだなと感じました。

――人間の極限状態を描くということでやはり脚本作業も大変だったと思います。脚本の渡辺(雄介)さんにはどういった部分を注意していただいたのですか。

宮月:僕自身は、原作で見せたい部分からあまり大きく外れていなければほとんど注文はしなかったんです。渡辺さんは漫画原作のものを多くやられている方なので心配はありませんでした。拾うところを拾って、捨てるところは大胆に捨ててもらえているので、さすがだなと感じます。

――映像は流れていくものなので、疑問を持った瞬間に観客の意識がそこで止まってしまいますから。

宮月:そうなんです。シグナルに対しての策の練合を漫画のまま落とし込んでしまうと映像ではピンとこない地味なものになってしまうんです。それをアクションメインで作っていくのは映画ならではの表現で、素晴らしかったです。

――他に脚本を見て、ここがよかったなと思った点はありますか。

宮月:シグナルの表現方法ですね。大枠は同じですが、アプローチ方法を変えてもらったことで無駄がカットされていたのは素晴らしかったです。

――丁寧に全て拾っても駄目になることはあるので、バランス感覚が難しいところですね。

宮月:丁寧にすることで崩れてしまうよりは、むしろ大切な部分を残してアレンジをしたほうが観た人は同じだったなと感じることが出来ると思うんです。そこが上手くできていると思います。単行本を見ながら答え合わせをされたら、全然違うんですけど(笑)。見終わった後の印象は同じだと思います。

――一緒でした。変な話、原作を忠実に再現ということであれば漫画だけでいいですから。監督をはじめとした制作スタッフ・出演者のエッセンスがないと映画化される意味も薄いですから。

宮月:そうですね。

みなさんそれぞれに考えて演じられた

――今作では注目の若手俳優に集結していただいていますが、みなさんの演技はいかがでしたか。

宮月:素晴らしかったです。みなさん共通で死ぬシーンが入っているという到達点があるので、演技に緊迫感が出ていたのかもしれないですね。

――各々のキャラクターが持っている性格の違い・死に対する抵抗の違いも出ていました。

宮月:役者のみなさんがそれぞれ細かくキャラクターを考えながら演じてくださっていました。撮影していない時も役を崩さないようにされていて、それが出ていると思います。

――現場でのみなさんの様子を具体的に伺えますか。

宮月:見学で少し見ただけでも皆さんがそれぞれのキャラクターをいかに作りこんで演じているかを見られたので楽しかったです。生徒役のみなさんの中に、中村(獅童)さんが入られたときの緊迫感・ラスボス感は凄かったです(笑)。

――この人を相手にしなくてはいけないのかってなりますよね(笑)。

宮月:普段はみなさん和気あいあいとされて本当の学校のようでした。いい雰囲気でやってらっしゃるなと感じました。

――自殺シーンはどうでしたか。

宮月:僕が観たのは久保田を演じられた中島(健)さんのシーンだったんですけど、本番前も入念にやられていて、こだわりを感じて嬉しかったです。

――アクションシーンですからね。

宮月:他のみなさんも死ぬシーンはそれぞれハイライトなの、凄くこだわってやっていただいたように感じました。他には制服の着方もみなさんそれぞれに考えて演じられたと伺ったので、そんなところまでこだわっていただけて嬉しかったです。

――だからキャラクターにリアリティが生まれているんですね。

宮月:みんなしっかり役作りされていましたね。

――こういった作品は音楽も重要になると思いますが。

宮月:そうですね。最初に音楽なしのものも見せていただいて、後で音楽付きのものを見せていただいたんですけど、やはり音楽の力は大きいなと感じました。普通こういった作品は怖さを煽るような曲になるんですけど、ポップな感じの曲で面白いなと感じました。ラストの音楽もシーンも合っていて素晴らしかったです。

――前に出すぎてないのもいいですよね。演技・演出を意識されて作っているのを感じました。

宮月:劇中曲と同じくJin Nakamuraさんの手掛けられた主題歌もいい曲でした。

――yukaDD(;´∀`)さんが出演されているみなさんとも世代が近いこともあって、作品に合う楽曲になっていましたね。

宮月:はい。

――ED後の最後のシーンは衝撃でした。こういう切り口できたのかと。

宮月:ここで言うとネタバレになるので言えないですけどね(笑)。脚本の段階で何度も変わっていて。ラストをどう締めるかは喧々諤々とやったところで、いい形で締めていただけました。そこは実際に見ていただいてのお楽しみですね。

若者にとっては刺激になるものだと思うんです

――改めて完成作品を見られての感想を伺えますか。

宮月:映画は実際の上映時間より短く感じるくらいで、凄くよかったです。そこは映画では大事な部分だと思っています。

――漫画だと読者のペースですけど、映画は監督にゆだねることになりますから。特に極限状態を描く作品が長く感じると疲れてしまうので。

宮月:今作は特に若者に見て欲しいという思いが強いので、刺激の度合いや長さに関してもうまくマッチしているんじゃないかと思います。

――私の世代だと『バトル・ロワイアル』が近いですが、衝撃も凄かったです。

宮月:その感じの面白さって、若者にとっては刺激になるものだと思うんです。そこは今も変わらないと思うので、上手くはまってもらえればと思います。

――高校生向けの作品はどうしても恋愛ものが多くなりますから、衝撃も凄そうですね。

宮月:そこは監督も、恋愛ものへのアンチの気持ちも込めているらしいです(笑)。

――作画の近藤しぐれ先生も映画を見られたのですか。

宮月:はい、一緒に見ました。近藤先生は自分で描かれたキャラが実写ではどのように描かれたかを、僕よりも着目されていました。画面の雰囲気の再現度はすごくいい感じで出来ているとおっしゃられていました。

――実写になると漫画とは違ったインパクトがありますよね。

宮月:はい。漫画だとほんの1コマでも、実際はそこに至るまでの過程が必要なものもあるじゃないですか。例えば視聴覚室のシーンで頭をぶつけて死んだ子も、原作だとドーンと1回だけなんですが、映画では何度もぶつけていて。そういったリアリティは漫画以上に出さないといけないので、そういう映画ならではの作り込みは原作ファンにも見所になると思います。

――映画ならではの圧迫感、抗えないことの絶望。

宮月:大変だったと思います。嫌だと思いながら自殺するわけですから。

――なにかに襲われるわけではないですから。

宮月:そうなんです。この作品では誰も人を殺してないんです。受け身ではないので難しいと思います。そこもしっかりと演じていただけました。

――いよいよ映画が公開され、原作ファンはもちろん役者のみなさんも見るわけですが。

宮月:そうですね。役者のファンの方は普段あまり見たことがない最後を見ることができる作品になっていると思います。こんな感じになるのか、というのを楽しんでほしいです。原作ファンの方には、原作のエッセンスはしっかり受け継いでいただいているので、違う面もありますがそこは映画ならでは面白さを見出していただければと思います。

――新しい面を見ることができるのは嬉しいと思います。

宮月:新鋭のキャスト方々にご出演いただいているのですが、Twitterを見ていると皆さんの推しがいつどんな風に死んでいくのか気になっていらっしゃるみたいです。こんな姿、あんな姿の、推しを見ることはないと思います。

――いい楽しみ方ですね。

宮月:ぜひ、そこも含めて楽しんでください。

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