初値は公募価格の3倍、“アナログなスポーツ人材斡旋企業”が株式市場で人気のワケ

昨年12月26日、2019年のIPO(新規株式公開)の“トリ”を務める形で、東証マザーズにユニークなベンチャー企業が上場しました。「スポーツフィールド」という会社です。

やっていることは人材斡旋。業種そのものは極めてオーソドックスですが、最近新規に上場した会社の中でも人気は高く、上場初日は買いが殺到し、取引が成立しませんでした。上場2日目になってようやく初値がつきましたが、その価格は8,500円。公募価格2,730円の実に3倍でした。

株価の騰勢はすぐに落ち着きましたが、それでも上場5営業日目に当たる1月7日終値は7,370円で、公募価格の2.7倍。PER(株価収益率)は51.16倍、PBR(株価純資産倍率)は18.83倍という人気ぶりです。

同社の成長性への期待値がそれだけ高いわけですが、投資家を惹き付けているものは何なのでしょうか。


需要の根強い体育会系に特化

スポーツフィールドの直近2018年12月期の売上高は15億円。このうちの45%が、新卒者を企業と引き合わせるイベント関連によるものです。企業にブースを出してもらって、そこに学生を呼び込む形式で、ブースを出す企業からの収入が売り上げになります。

残る55%が人材紹介手数料。内訳は、新卒と既卒がほぼ半分ずつです。学生や既卒者に対して行う就職カウンセリングは無料。紹介した会社への内定が決まったら、内定先の会社から成功報酬として採用コンサルフィーをもらいます。

これだけなら同じようなことをやっている会社は星の数ほどあります。しかし、同社には他社にない2つの強みがあります。1つは、斡旋する対象が体育会系の学生、もしくはスポーツ経験のある人だという点です。

厳しい上下関係に揉まれてきた体育会系の学生は「礼儀正しい」「忍耐力がある」「協調性がある」「上下関係への理解が深い」といった点で、他の学生に比べて秀でている傾向があります。ほぼハズレがない体育会系の学生は、企業がのどから手が出るほど欲しい対象であることは、昔も今も変わりません。

しかし、企業が体育会系の学生にアプローチするチャネルは、自社のOB・OGルート以外にほとんどありません。しかも少子化が進んでいることもあって、体育会系の学生の数は減る一方。ますますその希少性は高まっています。

アナログにこそ勝機あり

一方、引く手あまたの体育会系の学生であっても、OBやOGがいる企業以外の会社のことも知りたいというニーズがあるわけです。実は、その学生側のニーズを満たす秘訣にこそ、この会社最大の強みがあります。それが2つ目の強み、「アナログ」です。

この会社は登録してくれた体育会系の学生1人1人に担当のカウンセラーがつき、徹底的にその学生とコミュニケーションをとります。何度も直接会い、話を聞き、その学生の強み・弱み、家庭環境、将来展望などを把握します。その手法は極めてアナログです。

しかも、体育会系の学生を相手にするので、カウンセラーとなる社員も皆、体育会系もしくはスポーツ経験のある人。全社員の9割以上が体育会系出身、もしくはスポーツ経験者だといいます。役員陣も、創業社長である篠崎克志氏は卓球とボクシング、副社長の伊地知和義氏はラグビーといった具合に、社内取締役5人全員がスポーツ経験者です。

このため、スポーツに本気で取り組んできた人が、何を大切にしているかをよく理解しています。スポーツ経験がないカウンセラーに、自分が本気で取り組んできたことに敬意を払ってもらえなかったり、逆にすっとんきょうな評価をされると、紹介してくる会社も的はずれになります。

学生・企業の双方にメリット

デジタル全盛の時代、面接にたどり着くまで顔ひとつ見てもらえずに「今後のご多幸をお祈り」されてしまう学生は、売り手市場と言われる今も少なくありません。

体育会系の学生の心をつかめる会社だからこそ、体育会系の学生の登録者数も増えるし、どういう人物かも把握している会社が紹介してくるので、企業側もニーズに合わない学生を採用しないで済みます。

効率を優先し、デジタルに頼っていては、取り逃がしている有望な人材がいても見落としてしまう可能性があります。企業側もそのことに気付いているのではないでしょうか。

時代に逆行するようでいて、実は今、最も必要とされているアナログを重視している――。株式市場におけるスポーツフィールドの人気の理由は、まさにこの点にあるのではないでしょうか。

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