「石売りに来ました」 秦野や伊勢原で伝統行事

参拝客に振る舞われた薬師粥=伊勢原市の日向薬師

 今年一年の地域の安全や無事を願う伝統行事が8日、神奈川県の伊勢原、秦野両市内で行われた。伊勢原市日向の日向薬師では、本尊が開帳され、参拝客は振る舞われたかゆで体を温めた。秦野市西大竹では全国でも珍しい「石売り」が行われ、小学生が道祖神として祭られる石を売り歩いた。

◆伊勢原・初薬師

 日向薬師の本尊は、国重要文化財に指定されている「薬師三尊像」。平安期に多い、表面にノミの彫り跡を残す「鉈(なた)彫り」と呼ばれる技法が用いられている。

 本尊は年5日しか拝観できず、訪れた地域住民らは静かに手を合わせた。

 境内では、無病息災と健康を祈念し、ダイコンやハクサイといった地元産の野菜や供物の餅を入れた「薬師粥(がゆ)」が参拝客に振る舞われた。千葉県船橋市に住む主婦(70)は「心まで温まる」と喜んだ。

 世話人総代の能條好(よしみ)さん(73)は「昨年は大きな災害があっただけに、今年は平穏な年になってほしい」と願っていた。

◆秦野・石売り

 秦野市西大竹では、地元の子どもたちが明治中頃に始めたと伝わる石売りが行われた。

 石売りは道祖神に使われる石を販売。購入した家は、子どもに病気や災いが起きず、子孫繁栄の利益もあるとされる。

 今回は小学生14人が参加。石をリヤカーに載せ、東町(あずまちょう)と開戸町(かいどちょう)の二つの地区を回って「石売りに来ました」と声を掛け、300円から3千円程度で販売した。併せて、しめ飾りやお札も回収した。

 参加した男児(10)は「石売りは地域の良い伝統。みんなで一緒に家を回れて楽しかった」と振り返り、もう一人の男児(12)は「坂道を上がるのが大変だったけど、売れてうれしかった。参加する子どもが減っているので、来年はもっと集めたい」と意気込んだ。

 石売りは例年、どんど焼きが行われる14日の前に行われる。販売した石は15日に、参加者が元の場所に戻す。

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