眉村ちあきを知らない人へ

文化放送『眉村ちあきのオギャなじかん』のサイト

▼シンガー・ソングライター、眉村ちあき氏。23歳、東京都出身の「弾き語りトラックメイカーアイドル」。同僚記者たちが書く芸能記事を通して昨年筆者(私)が知った中で、最も衝撃を受けた人物なので、まだ知らない方にお伝えします。

 私の同僚は記事にこんなふうに書いていた。

「1人で歯医者に行けたとか、何でも歌にしてしまう。へんてこなのに胸を打つ歌詞を秀逸なメロディーに乗せ、歌唱力もずばぬけている。天衣無縫でまるで子どものようだが、型にはまらないから不意を突かれ感動する。褒め言葉を連ねる『ほめられてる!』はポップで幸福感に満ち、2人だけで生きたいから国を建てると宣言する『開国だ』は強烈なラブソングだ」「「天才」と言われすぎて初めてスランプに陥った経験すら、『なんだっけ?』という曲にした」

▼その後、眉村氏が出演したテレビ番組、BSフジ「BSいきものがかり」(2019年11月5日放送)と、NHK・Eテレ「前山田×体育のワンルーム☆ミュージック第二夜 完全版」(今年1月3日放送。元は19年9月放送)からの採録を軸に、眉村氏を紹介していきます。

▼【始まりはマッチョ】

 いきものがかりの3人が会いたい人を招く『BSいきものがかり』に出演した眉村氏。Tシャツ、短パン、ビーサン姿で白いベンチに腰掛け、音楽を始めたきっかけを聞かれて答えた。「BoAさんが好きで、高校3年生ぐらいの時にめちゃはまって、ちっちゃい女の子がマッチョのダンサーを従えて歌ってるのが『超カッケー』っと思って。私もマッチョを従えたいと思ってボイトレを始めたのがきっかけで、そのボイトレの先生がアイドルグループのプロデューサーとつながってて、私のことを新メンバーとして入れてくれて、最初は3人組でやってたんですよ。1年くらいで解散しちゃって、そっから、一人でやってくにはどうしたらいいか考えて、まず『曲がない』ってなって、曲を作るようになりました」

 いきものがかりの3人がそろって感嘆、「すごいね」。

▽いきものがかり吉岡聖恵氏が、作る曲のジャンルの幅広さ、歌い方も変えていることを指摘すると眉村氏は「結構、対バンした相手の『ここがいい!』って思ったら、それに寄せた曲を作ったりしてたら、めちゃくちゃになっちゃって」。いきものがかり山下穂尊氏は「バラエティーで芸人さんに即興で作った音源が、もうCDになってる。『大丈夫』。あの歌がめちゃくちゃ良くて」。うれしそうな眉村氏。

▼【即興で震わせる】

 その『大丈夫』は、テレビ東京系『ゴッドタン』で2018年に披露した即興ソングで、「おぎやはぎ」ら芸人たちを震わせ、泣かせた一曲。眉村氏を知るにはまず、YouTubeの公式チャンネルで『大丈夫』MVを見てみてはいかがでしょうか。

▼【楽譜要らず】

 眉村氏が作曲を始めたのは19歳から。『前山田×体育のワンルーム☆ミュージック』出演時の眉村氏によると、ピアノを弾くオジサンが「iPadで曲作れるよ」と教えてくれたのだという。iPadにはアップル社の音楽制作ソフト「GarageBand」が入っていて、メジャーデビューするまで眉村氏は、このソフトでゼロ円で曲を作っていた。作る場所は自宅の脱衣所。1曲の所要時間は「一徹です」(徹夜で約8~9時間)。番組では、その作詞作曲法をヒャダインこと前山田健一氏と岡崎体育氏の前で即興披露した。眉村氏が、愛用していたiPadを取り出すと、画面はヒビだらけ。岡崎氏から曲のテーマに「鬼ごっこ」を提案されると、すかさず「じゃあ『宇宙人の鬼ごっこ』!」と眉村氏。iPadに向かい「オニゴッコ、オニゴッコ」と声を入れ、声色を加工、ループさせる。今度はドラムツールを指先でぺたぺたと叩いてリズムを作る。どんどん作る。先輩の前山田氏と岡崎氏は「我々の常識を超えた作り方」とお手上げ状態。眉村氏は1小節を「1関節みたいなの」と言い、2小節を「10個」と呼ぶ。岡崎氏は「俺と同じで楽譜読めないですね?」と看破、うなずく眉村氏。

▼【作詞速すぎ】

 次に眉村氏、取り出した紙切れにサインペンでキュルキュルと歌詞を書き付けていく。

<NHKの収録前、僕は君を連れ出して 公園で鬼ごっこ、 そう、鬼ごっこをした>

迷いなし、「リズムに文字が納まればいいんですよ」とニコニコしている。

「そっからメロディーを作る」、といっても音符を置いていくのではなく、さっきの歌詞を思いつきでささやくように歌い、iPadに録音。「すげえいい曲じゃん!」とのけぞる岡崎氏。リズムと声が重なった状態を再生して眉村氏は「次どうしょっかなあ?」と、ちょっとだけ黙考。

<泥だらけの僕の手を 沼の上から引っ張って 君の気持ちごと…>

 ここに続く最後をどうするか。振られた前山田氏が<引きずり落としてやりてえな>と口にすると、眉村氏は瞬時に「あ!」。<引きずり落としてどんぶらこ>とアレンジ。

続いて<小学生のころからあの子に触れてみたかった>と書き進んだところで、「やっぱ名前にします」。岡崎氏に初恋の人の名前を尋ね、出てきた名前を入れて<小学生のころからユキミに触れてみたかった>。最後はアウトロとしてドラムツールを気の向くままめちゃめちゃ叩いて完成。タイトル「宇宙鬼ごっこ」。

▼【左手問題】

 音楽制作ソフトで全て独りでやる眉村氏だが、アコースティックギターを弾きながら歌う。『BSいきものがかり』によると、ギターはトラックを作って約2カ月後に始めた。「4曲ぐらい作って、ライブハウスでライブしてたんですけど、なんか『(マイクを持たない)左手、何したらいいか分かんない』って思って、なんか持ちたいなって思ってギターを」。なんだその動機はと、いきものがかりは前につんのめった。

▼【株式会社】

 2018年に『ゴッドタン』でメジャーデビューのチャンスをつかむより前、眉村氏は2017年12月、「株式会社 会社じゃないもん」を設立、社長に就任した。いきさつを『BSいきものがかり』から引くと…。まだライブの客が5人ぐらいしかいない時代、芸能事務所を名乗る人から「神奈川にうちの事務所あるから来なよ」と言われ、行くと、普通の家みたいな所。ハイボールをいっぱい飲まされ、酔っ払い、おでこをなでられた。これで「事務所って怖い」と思った眉村氏、「自分でつくったらよくね?」と思い立つ。「社長って肩書き、代表取締役って肩書きも面白いかなって」

▼【株主】

 社長になると、一株一万円でファンに譲渡、ファンが株主化していくシステムに。株主総会を開催して「社歌斉唱!」。といっても、まだ誰も知るわけない自作の社歌を初披露。歌詞は<社長の暴挙こそが 我らの願い~♪>。いきものがかりの吉岡氏、水野良樹氏は笑いすぎて落涙した。

▼【いっぱいいる】

「(ファンは)みんないじられるのが好きなタイプで、私はいじるのが好きなんですよ」と眉村氏。私の同僚記者が書いた記事には「ライブハウスを訪ねると“おじさん密度”が満員電車を超えていた」とあった。

 おまけに眉村氏は、はげ好きだそうだ。いきものがかりの番組では「今、1500株くらい出てて、株主は1300人くらいです。いっぱいいますよ、はげが」と笑った。当欄、先月に続き2回連続はげネタ登場で恐縮だが、眉村氏のはげ好きは愛のあるやつなのか…。あるならば、私もはげながら応援、陰ながら応援したい。

▼【節度】

 ファンたちを好きすぎる眉村氏は、twitterでファンの投稿「(どこの)飲み屋で眉村のファン同士、飲み会してます」などと見つけると、店に駆け付け「イエ~ィ!会いにきたよ~!」と自分から会いに行くアイドル。逃げられれば追いたくなり、来られると引きたくなるのが人情だ。「ダメだよ 来ちゃ」「メジャーデビューしたんだし、距離感はちゃんと保ちなさい」と、ファンのほうが節度を示すそうだ。

▼【マッチョは?】

『BSいきものがかり』で披露した楽曲は『ピッコロ虫』だった。パソコンに手を伸ばして演奏をスタートさせ、アコギを弾き、ひとり歌う。大サビの歌詞は<明日 朝起きたら 小松菜奈になってますように>。これまたいい詞だ、小松菜奈だったら私もなりたい。良い圧で伸びる声と、透き通って惹きつけるウィスパー系の声の両方に、いきものがかりも撃ち抜かれた。ただ、山下氏が一つだけ気になった。『(あれほど憧れたという)マッチョが全然後ろにいないね」。すると眉村氏「マッチョが見えそうな曲もあります。『おばあちゃんがサイドスロー』って曲なんですけど」。その曲名だけでまた爆笑。

▼【冠番組】

『おばあちゃんがサイドスロー』は、1月8日リリースの新アルバム『劇団オギャリズム』に収録されている。1月5日にはラジオの文化放送で15分間の冠番組『眉村ちあきのオギャなじかん』(日曜18:45~19:00)が始まった。街角の子ども達からの素朴な質問や疑問に答えつつ、眉村氏自身も成長していく模様を届ける番組とされているのだが、初回、2人目の質問者は普通に大人のファンだったし、眉村氏は「初めて15分しゃべれた!」とキャッキャしていたのだが、それは始まって数分ぐらいのことだった。だが、眉村氏が楽しそうにしていると、こっちも細かいことはどうでもいい気分になる。皆さまはどうでしょうか。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第131回=共同通信記者)

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