■世界中のミュージシャンが愛用“TAMA”ドラム
ロックバンド「XJAPAN」のYOSHIKIさん、「東京スカパラダイスオーケストラ」の茂木欣一さん、アルバム総売り上げ1億枚以上の米ロックバンド「メタリカ」も、TAMAのドラムを愛用している。なぜTAMAが選ばれるのか?世界が認めるドラムは愛知県瀬戸市にある「星野楽器・暁工場」で生産されていた。
■ドラム工場に“炊飯釜”がずら~り!
ドラムの胴体は「シェル」と呼ばれ、木材でできている。どうやってまん丸にするのか?
工場では平らな板をまず90度に熱したお湯に浸ける。熱湯にくぐらせることで木の繊維を柔らかくするのだ。浸した板はすかさずローラーにセット。熱を加えながらローラーで曲げるため湯気が立ち上る。
でもこれは“曲げグセ”を付けるためのいわば準備体操。まん丸にする“秘密兵器”はその先の工程にあった。
“炊飯釜”のような道具がずら~っと並んでいる。その中に曲げグセの付いた板を差し込み上から叩いてしっかり押し込んでいく。これで終わりかと思いきや、今度は接着剤を両面に付けた別の1枚を重ねるように押し込む。さらにもう一枚。ドラムの胴体「シェル」は、強度を高めるため3枚の板を貼り合わせるのだ。
“炊飯釜”の上にずっしり重そうな器具が下りてきた。ハンドルを回すと、接着剤がにゅ~っと出てくるほど強く内側から押し付ける。しばらく経って釜から取り出すと、見事なまん丸に!3枚がきれいに重なってまるで分厚い1枚板のようだ。
■シェルの“お化粧”は職人技!
ここから「シェル」に色付けをする。シェルにシールを貼るドラムもあるが、一般的に高級ドラムは塗装で、中でも木目を活かした色付けが人気だという。
鮮やかな色の濃淡をどうやって付けるのか?
塗装はすべて職人の手作業だ。1つ1つ異なる木目の個性を見極めながら濃くしたい場所を決めるという。まんべんなく塗料を吹き付けた後、上だけを集中的に塗装。今度は下。木目を活かしたグラデーションは職人の腕の見せ所なのだ。
色を輝かせるのはツヤを出す特殊な塗料。職人自身の姿が映り込むほどの輝きに仕上げると、今度は機械にバトンタッチ。シェルの左右にワックスを塗った木綿の布が近づき、回転しながらさらにピカピカに磨き上げる。まるで高級車のワックスがけだ。
■ドラムヘッドの張り具合は“音”で聞き分け!
ドラムを叩く部分は「ドラムヘッド」という。シェルの空洞を覆うように敷くと、その上に木枠を置いて周囲を金具で締めていく。
すると指でトントン、トントン音を鳴らし始めた。しかも凄いスピード。これはドラムヘッドの張り具合を均等にするための作業。音の高い低いを瞬時に聞き分け張り具合を調整するのだ。ドラムを出荷する時はどこを叩いてもほぼ同じ音のレベルになっているという。まさにタマげた職人技だ!
■逆境からの挑戦!世界を席巻“強靭”なドラム
1960年代にドラム作りを始めた「星野楽器」。当初輸出は順調だったが1971年のニクソンショックで為替レートが見直された結果、急激な円高で競争力を失い工場閉鎖の危機に直面する。逆境を乗り越えるため勝負に出たのが「新商品の開発」だった。
目を付けたのは音楽の流行の変化。当時、音楽はジャズからよりハードなロックが主流で、激しい演奏に耐える“強靭なドラム”が求められていたのである。当時、多くのドラムメーカーはシェルの材料に「南洋材(なんようざい)」という柔らかい木を使っていたが、これを「バーチ」と呼ばれる硬い樺(かば)の木に変更。さらに硬い板の両端を斜めにカットして丸める独自の方法を考案、当時の世界最高レベルの強度を実現したのである。太鼓を支える金具「ホルダー」も、激しい演奏で滑り落ちないよう改良。
音楽のトレンドを押さえた“日本製ドラム”は世界のミュージシャンたちの評判となり、TAMAを世界的なブランドへと押し上げたのである。
■“TAMA”の名前の由来って!?
なぜ世界的ブランドが社名の「星野楽器」ではなくTAMAなのか?
「ブランド名の由来は、星野楽器の創業者の妻の名前、“多満”からきているんです。」(星野楽器)
創業者の妻の名前は「星野多満(ほしのたま)」さん。経理を取り仕切っていた女性で、社員の人望も厚かったことからブランド名になったという。
音楽の変化・トレンドを見逃さず使う人の声を聴く。この姿勢を忘れないものづくりがミュージシャンのハートをつかみ続けている。
【工場fan編集局】