“鉄道愛”日本とタイつなぐ 機関車DD51再出発 長崎きしゃ倶楽部・吉村さん CF活用、技術者伴い現地入り

タイの地での再出発を待つ「DD51」=タイのラチャブリ県(写真はいずれも吉村さん提供)

 鉄道ファンの思いを乗せ、異国で再び活躍を-。JRの寝台特急列車などを長年けん引したディーゼル機関車「DD51」2両がタイの地で再出発する準備を進めている。支援する長崎市の鉄道愛好家団体「長崎きしゃ倶楽部(くらぶ)」代表世話人、吉村元志さん(63)は「(復活が)日本とタイの友好に少しでも役立てばうれしい」と期待を膨らませる。

日本で活躍していたころの「DD51」=2012年5月、札幌駅

 DD51は、長崎発着の「さくら」「あかつき」といったJRの寝台特急などを長年けん引し、長崎県民にもなじみのある車両。今回の2両は1975年に製造され、北海道で活躍し、2015年に廃止された寝台特急「北斗星」などをけん引した。引退後の18年、タイの鉄道工事会社が買い取っていた。
 吉村さんは偶然、タイ在住の鉄道ファン、木村正人さん(52)がフェイスブックに投稿した画像を発見。異国に渡った「大好きな機関車」を一目みたいと思い、木村さんと連絡を取り、同年末に現地に飛んだ。2人は車両がきれいに塗り直され、タイでも大切に扱われていることに喜びを感じた。一方で操作方法が全く伝わっていないという事実が判明した。彼らの手元にあったのは日本語で書かれたマニュアルだけ。運転席の周辺機器の標記も日本語のままだった。

日本語標記のままだった機器類。“応急処置”として木村さんが英訳しシールを貼った

 訪問した際、木村さんは現地の人が運転する様子を撮影し、動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップしていた。すると数日後、動画を見た日本の技術者からコメントが書き込まれた。「起動からブレーキまで基本動作が違う。このまま運転させるのは危険」。この指摘を受け、吉村さんはこんな思いを抱いた。「日本ブランドを信頼し、大切にしてくれているのに…。何とか助けられないか」
 ただ、専門知識は全くない-。悩んでいたところに手を差し伸べてくれたのも、やはり鉄道を愛する仲間だった。知人の紹介でつながったのは、過去にクラウドファンディング(CF)に成功したことのある鉄道ファン。技術者を派遣する資金を調達するため、吉村さんが中心となり、昨年8月にCFを開始した。
 10月末の締め切りまでに集まった寄付金は、目標額の150万を大きく上回る264万円。“鉄道愛”は日本だけでなく、タイにも伝わり、両国で計226人が賛同してくれた。
 吉村さんは9日にDD51に精通した技術者を伴って現地に入り、12日まで運転の基本動作の指導や整備作業に取り組んでいる。6月ごろまでに数回訪問し、指導を続ける計画だ。
 鉄道好きが高じ、国を超えた事業に発展した今回の支援活動。吉村さんは「大好きな機関車にできる限り長く走ってもらいたい。その思いだけですよ」と笑った。2両は早ければ今月中にも本格稼働し、タイ国内の鉄道の複線化工事に使う資材の運搬車両として再出発する。

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