日本の金融政策はどこに向かう? 欧米では「脱・マイナス金利」の動きも

日本では2016年2月以降、マイナス金利政策が続けられています。貸出利ザヤの縮小から多くの地方銀行が営業赤字に陥るなど、その副作用が大きな問題となっています。

実際、苦しい経営環境を受けて、金融機関はATM手数料の無料措置縮小などを打ち出しているほか、最近では口座維持手数料の導入による顧客への負担転嫁も議論されています。

一方、世界に目を向けると、真逆の動きを取る国も現れ始めています。日本の金融政策はどこに向かおうとしているのか、他国の状況を踏まえながら考えてみたいと思います。


マイナス金利に距離を取り始めた欧米

スウェーデン中央銀行は1668年に設立された世界最古の中央銀行で、2009年に世界で初めてマイナス金利政策を導入するなど、他国の金融政策に大きな影響力を持ちます。そんな同行が2019年12月19日、政策金利を-0.25%から0%へと引き上げました。

同国の物価は最近では目標をやや下回っており、2019年以降は経済成長率も鈍化していることから、利上げに適した状況とは言えず、2人の副総裁は利上げに反対しました。それでもやや強引に利上げを行った背景には、副作用への懸念がありました。

利上げと同時に発表された金融政策報告書では、「マイナス金利政策は効果的で経済に好影響を及ぼしたものの、それが恒久的な措置とみなされてしまうと副作用があらわれるおそれがある」と、マイナス金利政策長期化への警戒感が示されました。

スウェーデン以外では、米FRB(連邦準備制度理事会)も2019年10月のFOMC(連邦公開市場委員会)において、マイナス金利政策は「金融システムに深刻な複雑化と歪みを招く可能性があり、現時点で魅力的な政策手段とはみなせない」と結論づけています。

ドナルド・トランプ大統領はツイッターや講演を通じてFRBにマイナス金利政策を採用するよう、たびたび圧力をかけていますが、現時点では副作用への警戒感から米国で採用される可能性はほとんどないと、筆者は考えます。

副作用のツケを誰が負担するのか

金利がある一定水準を下回ると、金融機関の仲介機能が低下し、経済にとってむしろ悪影響を及ぼすという考え方は「リバーサルレート論」と呼ばれ、ここ数年、研究が盛んな分野となっています。

日本銀行の黒田東彦総裁はマイナス金利政策導入直後の2016年に「個人預金の金利がマイナスになる可能性はない」と国会で答弁していますが、中央銀行に預ける準備預金にマイナスの金利を払いながら個人預金の金利をマイナスにできないのであれば、マイナス金利政策の負担は金融機関に集中してしまうことになります。

わが国の物価は、目標に遠く届かない状況が続いています。黒田総裁は追加緩和の手段として、マイナス金利のさらなる深掘りを挙げています。スウェーデンと異なり、日本ではマイナス金利政策は予見できる将来にわたって解除される見込みがありません。

マイナス金利政策が継続する中で、その副作用を誰が負担するのかという議論は今後、否応なく進められそうです。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>

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