柏原芳恵「春なのに」卒業ソングの名曲に長年抱える違和感アリ! 1983年 1月11日 柏原芳恵のシングル「春なのに」がリリースされた日

卒業ソングのスタンダード、作詞・作曲は中島みゆき

今や卒業ソングのスタンダードナンバーとなった「春なのに」の作詞・作曲はご存知の通り中島みゆき。

いわゆる歌謡曲への楽曲の提供事例は他にもあるけれど、柏原芳恵のようなミドルティーンのアイドルへの提供曲としては中島みゆき初だったはずで、ある種実験的なこの試みに当時17歳の柏原芳恵は、見事に “名曲誕生” という結果で応えることになる。

柏原芳恵は14歳デビュー、最初のヒットは「ハロー・グッバイ」

柏原芳恵のデビューは、1980年6月。同期には松田聖子や河合奈保子、三原順子、岩崎良美がいる。柏原芳恵は14歳でのデビューだったことも影響してか、お姉さんアイドル達とは少し距離があって、華やかというよりは地味目というのが彼女に対する僕のイメージだ。

幸か不幸か、幼くしてナイスボディだったので、水着での活躍の方が歌より目立ったりして、グラビアアイドルのような扱われ方がきっと嫌なんだろうな~って、ちょっと可愛そうだな~って、同級生だった僕は(同じ歳という意味です)勝手に心配したりしていた。

柏原芳恵の最初のヒット曲は、1981年10月5日に発売された「ハロー・グッバイ」。でも、この曲は、以前のコラム(柏原よしえ「ハロー・グッバイ」はアグネス・チャンのカバー曲)にも書かせてもらった通りアグネス・チャンのカバー曲で、厳密に言えば彼女のオリジナル曲ではない。

「春なのに」は売上で「ハロー・グッバイ」に若干及ばないものも大ヒットとなり、彼女は NHK 紅白歌合戦にこの曲で初めて出場する。これで名実ともに柏原芳恵オリジナルの代表曲の誕生となったわけだ。歌手として認められるね。代表曲ができてよかったね。そう思ったのを覚えている。もちろんこれも同級生目線だ。

名曲だけど、卒業式に相応しい?

さて、ここからは、僕が当時からずーっと抱き続けているこの曲に対する “違和感” の話をしたい。

「春なのに」が何故名曲なのか――。

それは、柏原芳恵が等身大で歌っていて、自身の想いとして歌えているからだろう。だからこそ、しみじみと主人公の女の子の切ない気持ちが伝わってくる。この曲を歌う83年当時の柏原芳恵は17歳で高校2年生。もちろんそこには中島みゆきの計算があるわけで、曲中の主人公の女の子も17歳で高校2年生のはず。

―― だとすれば、主人公の女の子の気持ちに応えてくれない卒業を迎えた3年生の男性は先輩だ。うん、まったく違和感はないし、卒業シーズンによくあるケースだ。でも、これが卒業式の合唱で歌われていると聞くと途端に “違和感” がムクムクと湧き上がってくる。

 卒業しても 白い喫茶店
 今までどおりに 会えますねと
 君の話はなんだったのと
 きかれるまでは 言う気でした

この先輩はちょっとひどい奴だし、送辞のように、卒業生に送る歌としてもどうかと思ってしまう。卒業の歌だけど、卒業式には相応しくない。主人公の女の子が2年生だとすると、この曲を卒業生と在校生で合唱するっておかしいと思いませんか。

斉藤由貴と菊池桃子が歌った「卒業」と比べるてみると?

斉藤由貴と菊池桃子の「卒業」(共に85年リリース)が卒業式で合唱されるのはわかるけど、「春なのに」は、この2曲に比べると詞がより具体的で一方的に終わりしかない。

 卒業だけが 理由でしょうか
 会えなくなるねと 右手を出して
 さみしくなるよ それだけですか

「会えなくなるねと 右手を出して さみしくなるよ」と言う男性は、主人公の女の子の気持ちに気づいていて、でもその気持ちに応えることが出来ず、傷つけないように卒業を理由に距離をおこうとしているのか… それとも女の子の気持ちにまったく気づいていない鈍感野郎なのか。

出来れば、切ない前者のパターンであって欲しいのだけど、男性の気持ちを確かめるために、主人公の女の子が思い切って言おうと思っていた「卒業しても白い喫茶店 今まで通り会えますよね」という言葉を遮る「君の話はなんだったの」という男性の薄情なセリフ。この部分だけをみると後者のパターンになってしまう。

後者だとすれば、記念にもらうボタンを青空に捨てる時の主人公の女の子のセリフは “バカヤロー” だ。出来れば前者のパターンで “さようなら~。想い出をありがとう” 的にボタンを捨てて欲しい、切なく、甘酸っぱく。中島みゆきさん、本意はどちらでしょうか。

同級生目線で柏原芳恵をそっと応援していたから、“主人公の女の子2年生説” に拘り過ぎているのかもしれないけど、皆さんはどう思いますか。まあ、卒業式での合唱曲なんて、その学校の音楽の先生の好みによって選曲されるのだから、深く考える必要はないのだろうが、自分の卒業式でこの曲を合唱するなんてことになったら、「ちょっとおかしくない?」って直談判して先生を論破しただろうなぁ。

※2019年1月11日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 藤澤一雅

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