国民の権利としての「緩和ケア」 【2020新年スペシャル】佐々木淳「独逸徇行記」より

MEDIAN TALKS 編集部です。
2020年新年企画、外部配信開始記念企画としまして、通常の記事、コラムと並行しまして、これまでオリジナルサイトで掲載されてきたコラム記事の中から反響が大きかったものをピックアップ、スペシャルとしてお届けいたします。
今回は佐々木淳医師のドイツ視察報告の記事をお送りします。


●ドイツでは緩和ケアを受けることは法律上の「国民の権利」

●緩和ケアが必要な人を支える漏れのないセイフティネットワーク
●「その人にとっての最善の生活の質」という目的を共有したフラットな多職種連携
●緩和ケアに関わる費用はすべて無料(自己負担なし)

ドイツでは高齢者ケアも緩和ケアも在宅が基本。
在宅でのニーズに応じてさまざまなケアが提供される。

在宅療養の継続が困難になった場合には、施設や病院が選択されるが、状況によっては再び在宅に戻る。そして、最期まで「その人にとっての最善の生活の質」を確保するため、必要に応じてさまざまな形態の緩和ケアの選択が保証されている。ここではドイツの緩和ケアの仕組みの全体像をご紹介したい。

■前提となるGP(家庭医)との信頼関係

ドイツでは(家庭医)が主治医としてその人のプライマリヘルスケアを担う(※州によって多少差がある)。患者が在宅ケア(在宅療養支援)を必要する場合には、介護保険に基づく訪問看護介護サービスと連携しながら、GPが訪問診療を行う。形としては日本の在宅医療・介護と似ている。

ドイツでは国民の84%は病院で死にたくないと答えている。そして94%がGP(家庭医)が人生の最終段階のケアを提供すること(あるいはケアに参加すること)を望んでいる。そして実際にGPは、在宅医療やホスピスケアにおいても主治医として関わりを続ける。つまり、GPが国民から信頼され、在宅医療を含めて人生の最終段階まで支援できる(必要に応じて24時間対応できる)ということが基礎にある。

日本にはGPという仕組みはない。また「かかりつけ医」の大部分は、在宅医療の提供や24時間対応ができていない。在宅療養したいと意思表示があれば、場合によっては在宅医に主治医を引き継ぎ、そこから先の医療を確保できるが、そうでない場合には入院や入所を選択せざるを得ない。これは、日本において人生の最終段階の支援を難しくしている1つの要因でもあると思う。

■重度別・三段階の在宅緩和ケア提供体制

通常、在宅ケアが必要な状態になったら、まずはGPが中心となり、介護保険による訪問看護・介護との連携で、在宅療養支援の体制を作る。ちなみにドイツでは介護保険は年齢に関係なく使える。
しかし一般的な訪問看護・介護では対応困難な在宅ケアが求められる場合には、GPの指示に基づき、AAPV(Allgemeine Ambulante Palliativversorgung:総合在宅緩和ケア)が24時間体制の在宅緩和ケア(看護・介護)を提供する。
AAPVでも対応困難な、より高度な緩和医療が求められる場合には、GPとの連携に基づき、SAPV(Spezialisierte Ambulante Palliativversorgung:専門的訪問緩和ケア)が24時間体制の在宅緩和ケア(緩和医療・看護・介護)を提供する。
そして保険サービスではカバーできないケア(日常生活面・社会心理面・そしてスピリチュアルケアなど)をボランティア組織(Ambulanter Hospizdienst:在宅ホスピス)が担う。

医療保険と介護保険を組み合わせながら、ケアが提供されるところは日本と似ているが、日本とは違い、緩和ケアの専門ニーズに関わる部分には自己負担は発生しない。
日本では40歳未満の若いがん患者など、高い医療費と自己負担割合、そして介護サービスが利用できないなど、さまざまな制約や高い費用が問題になるが、ドイツでは緩和ケアは国民の権利として保証されているため、自己負担はゼロ。

(1)一般的な介護保険サービス
通常の在宅療養支援・在宅看取りは、GPによる在宅医療と介護サービス(訪問看護・介護・通所など)で支える。そして、特別な在宅緩和ケアのニーズがなければ、そのまま在宅での看取りは可能である。
看護介護サービスは「ソーシャルステーション」と呼ばれる拠点から提供される。
ケアマネがいないという点を除けば、日本の介護保険の訪問看護・訪問介護と基本的には同じ。

(2)AAPV(Allgemeine Ambulante Palliativversorgung:総合在宅緩和ケア)
通常の在宅医療・介護では、カバーしきれない緩和ケアニーズに対して準備されているのがAAPVという訪問看護・介護サービス。緩和ケアの専門性を持つ看護介護専門職が複数在籍し、患者や家族の苦痛や不安に対して、24時間対応する。
日本でいえば、緩和ケアに強みを持つ機能強化型訪問看護ステーションという感じか。

(3)SAPV(Spezialisierte Ambulante Palliativversorgung:専門的訪問緩和ケア)
病気や治療に伴う苦痛が大きく、AAPVでも対応できない高度な緩和医療ニーズに対して、SAPVという在宅緩和ケアチームが対応できる。複数の緩和ケア専門医を中心に、緩和ケア専門看護師やソーシャルワーカーなどによる多職種のチームが、家庭医と連携しながら在宅での緩和ケアの提供にあたる。
日本でいえば、在宅緩和ケア充実診療所加算を算定している大規模な機能強化型在宅療養支援診療所というイメージ。

(4)在宅ホスピス(Ambulanter Hospizdienst)
在宅ホスピスと聞くと、専門職による在宅緩和ケアを連想するかもしれない。しかし、ドイツでは教育されたボランティアによる人生の最終段階の援助のことを指す。
専門職のケアではカバーできない日常生活上の支援、そして社会心理面のケア、スピリチュアルケアのニーズも存在する。そこをカバーするのが「在宅ホスピス」と呼ばれるボンラティア組織。100時間の研修を受けたボンラティアたちが、医療、看護介護の専門職と連携しながら、専門的ケア以外の生活ニーズ全般に幅広く対応する。
「傾聴ボランティア」などの一部を除き、日本にこれに相当する仕組みとしての組織はおそらく存在しない。

ドイツの在宅緩和ケアの詳細へ(別記事)

(続きはオリジナルサイトでご覧ください)

© 合同会社ソシオタンク