【社説】台湾総統選で蔡氏圧勝 「現状維持」、重い民意だ

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 強権的な中国に対する危機感の表れだろう。台湾総統選で、独立志向の与党、民主進歩党(民進党)の蔡英文総統が史上最多得票で圧勝した。

 1年余り前までの蔡氏の不人気を考えれば、想像し難い結果である。台湾統一に攻勢を強める中国の習近平指導部への反発が、激流のように有権者の間に広がったのではないか。

 勝利宣言した蔡氏は、中国に対話を呼び掛ける。中国が「一国二制度」を引き続き提案しても、香港への圧力を目の当たりにした台湾側は到底受け入れられまい。民意が支持した「現状維持」に基づき、中台双方は新たな共存関係を探るべきだ。

 おととし秋の統一地方選で、蔡氏が率いる民進党は惨敗した。経済低迷や年金改革の不評など内政面でのマイナスが響き、親中路線の最大野党、国民党の躍進を許した。学者出身で感情的なパフォーマンスを嫌う蔡氏の押しの弱さへの有権者の不満もあったに違いない。

 ところが、昨年1年間で風向きは大きく変わった。

 それ以前の蔡氏は、対中政策でも強硬姿勢は避けてきた。「一つの中国」は認めない一方で民進党の独立志向を封印し、中台関係の「現状維持」を掲げた。現実路線で、中国と対話を進める狙いだったのだろう。

 しかし習国家主席が1月、一国二制度による統一を具体的に提起し、武力行使の可能性にも触れると、蔡氏は中国批判のトーンを強めた。非民主的な政治体制や劣悪な人権状況を挙げ、断固拒否した。その姿は有権者に頼もしく映ったはずだ。

 さらに6月、一国二制度下の香港でデモが起こると、中国政府は武装警察を派遣。武力介入を辞さない姿勢をあらわにした。蔡氏への支持がさらに広がったのは当然である。

 中国は、台湾統一を歴史的な悲願としている。さらに海洋進出の出入り口に位置する台湾を、安全保障体制でも譲れない「核心的利益」と位置づける。

 今後の出方が気掛かりだ。選挙結果を受け、中国政府の報道官は「いかなる台湾独立のたくらみや行動にも断固反対だ」と神経をとがらせている。

 国内では、蔡氏の勝利宣言を伝える海外放送が遮断される事態が起きた。政府や中国共産党に不都合な情報を隠そうとする姿勢は相変わらずのようだ。台湾や香港の反発が強まるだけだとなぜ分からないのか。

 台湾に接近する米トランプ政権の動きも見過ごせない。高官の相互訪問を促す「台湾旅行法」を成立させたほか、F16戦闘機66機の売却を決めた。

 中国政府を刺激する危険な行為だと言わざるを得ない。たとえ台湾の民主主義と自由を守るという大義名分があるとしても、米中関係をさらに悪化させ、覇権争いは後戻りできない状況に陥りかねない。

 そんな中で、習国家主席が国賓として春に来日する。

 日本政府の姿勢が問われる。安倍晋三首相は台湾を「大切な友人」と呼び、関係を重視してきた。台湾側も、西日本豪雨などの被災地に義援金をいち早く送るなど心を砕いている。

 中台が新たな共存関係を築くため背中を押す役割が日本に求められているのではないか。それこそが今回の民意を尊重することに他ならない。

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