ドイツの介護保険制度 【2020新年スペシャル】佐々木淳「独逸徇行記」より

MEDIAN TALKS 編集部です。
2020年新年企画、外部配信開始記念企画としまして、通常の記事、コラムと並行しまして、これまでオリジナルサイトで掲載されてきたコラム記事の中から反響が大きかったものをピックアップ、スペシャルとしてお届けいたします。
今回も佐々木淳医師のドイツ視察報告の記事をお送りします。


ドイツの介護保険は、日本と違い

●年齢制限がない

●「現金給付」が選択できる
●給付額を「使い切る」のが当たり前
●家族による扶養義務がある
●社会扶助のあり方が違う

 

ドイツの介護保険制度は、社会保障制度を担う5番目※の柱として、1995年にスタートした。
(※医療保険・年金保険・失業保険・労災保険・介護保険)

デュセルドルフ市役所を訪問し、社会福祉部長のアンケ・ミラーさんをはじめ、3人の担当者からドイツの介護保険制度のしくみ、デュセルドルフ市での運用の実際についてお話を伺うとともに、日本の介護保険制度との違いについてディスカッションした。

ドイツの介護保険制度は、日本の介護保険制度によく似ている。

例えば・・・

●介護が必要になったら要介護鑑定(認定)を受ける。
●要介護度に応じた給付を受ける。
●給付の上限を超えた部分は自己負担。
●在宅介護が基本だが、必要に応じて施設介護を選択できる。
●要介護度の認定に不服があれば申し立てをして、再審査を受けられる。

など。

給付の増大に伴い、保険料が少しずつ上がっているのも日本と同じだ。

しかし、日本と異なる点もある。
特に面白いと思った5つの点についてご紹介したい。

●年齢制限がない

日本では原則として65歳以上(一部40歳以上)が対象だが、ドイツには年齢制限はない。
日本では介護保険は40歳以上が加入するが、ドイツでは医療保険とセットになっている。つまり、医療保険に入っていれば、自動的に介護保険にも入るということになる。2年間以上の保険加入期間があれば、だれでも介護保険サービスを利用できる。
ちなみに介護保険料は給与の3.05%。本人と雇用者が50%ずつ折半で支払う。

●「現金給付」が選択できる

日本の介護保険には、現物給付(専門職による介護サービスの提供)という選択肢しかないが、ドイツでは家族や友人によるケアに対する現金給付がある。

現金給付(家族によるケア)を選択すると、要介護度に応じて月々最大901ユーロ(約11万円)の固定給付を受け取れる。現物支給のほうがより高度なケアが提供されるため給付額は大きくなるが、利用者の2./3は家族介護による現金給付を利用しているという。

日本では介護保険を利用しても、同居家族には介護への参加を求められる。そして家族介護は無償労働だ。
日本では、現金給付は「介護の社会化」という介護保険のコンセプトと違うのではないか(介護保険は、家族を介護労働から解放し、社会復帰させるためにある。現金給付は、結局、家族(主に女性)を介護労働に縛ることにならないか)という議論があり、制度化が見送られた。

ドイツでは、介護保険制度の創設時に、現金給付に対する反対意見はなかったらしい。
介護保険の有無にかかわらず、家族介護は一定の割合で存在する。この部分が評価されることがより重要であるという考え方だ。

また、ドイツの家族介護は「労働」として認められ、現金給付にとどまらない社会保障の対象となっている。
退院時や急変時などには10日間の介護休暇(有給)の請求権が認められている。介護のために時短勤務(週30時間未満)をせざるを得ない場合、年金、失業保険、労災保険などの保険料支払いが補助される。
つまり、ドイツの家族介護に対する「現金給付」は、単なる労働対価以上の意味を持つ、ということになる。

また、現金給付をするからには、一定の品質管理が必要になる。
家族介護を選択すると介護研修が受けられる(というよりも研修の義務が生じる)。また、適切なケアが行われているか、定期的なチェックも行われる。ケアが十分に行われていないと評価されると、現金給付を受けることができなくなる。

「介護の社会化」を進めるために現金給付という選択肢を封印した日本では、しかし、実態としては、家族は一定の割合で介護労働に関与せざるを得ない状況にある。介護離職もいまだに大きな社会問題であり続いている。また、家族介護の内容には介入が困難で、悲しい事件も時に発生する。

あるべき論だけでは、理想を実現することは難しい・・・

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