YBO² がカバーしたアニソン「太陽の皇子」とキング・クリムゾンの関係? 1986年 8月11日 YBO² のミニアルバム「太陽の皇子」がリリースされた日

呼称はイボイボ? ワイビーオーツー? いったい何者 YBO²

なぜかこのごろ、ふと考えた。
なぜ YBO² は1986年に60年代のアニソンをカバーしたのか…?

10枚組ボックス、未発表ライブ音源の発掘、4種類のライブ盤の同時発売、ベスト盤の再発などなど、YBO²(イボイボやワイビーオーツー)は近頃、80年代インディーズファンの心と財布を俄に、密やかに騒がせている。

その中心でベースとヴォーカルを担当していたのが、トランスレコードという、当時インディーズ御三家と呼ばれたレーベルの一つを立ち上げ、雑誌『FOOL'S MATE』を創刊した北村昌士(1956-2006)さんだ。

北村昌士が上梓した「キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて」

1981年、弱冠24歳の北村さんが『キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて』(シンコーミュージック)をを世に送り出す。以来重版がないせいか、長らく高値で入手困難であったこの本を、僕は最近ようやく手に入れた。しめしめ、悲願達成。キング・クリムゾンやプログレをほとんど知らない僕は、むしろ北村さんに興味があったのだ。

この本の中で、北村さんは書いている。
「ただひとつ残念だったことは物理的・時間的な制約から、クリムゾンの周囲の音楽状況と、クリムゾン解散以降の各メンバーの詳細な解説にまで手が及ばなかった。」(P.282)
裏を返せば、本書にはクリムゾン自体の音楽と、その解散以前のすべての参加ミュージシャンの詳細な解説が網羅されている。それにしても、一体全体どうやって弱冠24歳の青年が、キング・クリムゾンの全貌はおろか、グループに関与したすべてのミュージシャンの参加曲やアルバムを網羅しえたのか。

時を経て捉え直されたキング・クリムゾンの音楽

まずはちょっと長いが、北村さんによるキング・クリムゾンの特徴に耳を傾けよう。
「キング・クリムゾンとムーディー・ブルースの音楽はその類似点がたびたび指摘されるが、本質的にはむしろ全く異なった性質の音楽集団である。ムーディーズの場合、音楽がつくられていく過程で、そのイメージは演奏者全員の理解と一致を事前に求めあいながら進められていく。つまりメンバーが均一のヴィジョンを定律して全体を形成していくというやり方だ。(略)ところが、キング・クリムゾンはそうではなかった。音楽は各個人の理性的な一体化の結果ではなく、無意識から生じるより無秩序で莫大なエネルギーの激突として想起されている。つまり演奏者Aと演奏者Bが互いの音を聴き、それに反応しながら次の瞬間を創り出すといった即興的性格が求められ、それを最終的に形あるものへとコントロールする力として、リーダーのロバート・フリップが介在していたのである。」(p.70)
とはいえ「即興的性格」でも、何でもありではないらしい。キング・クリムゾンには「ロック」が必要だという。
「ロックとは形式や基本的な約束事よりも、より直観的な、刺激に敏感な柔軟なフォームを有する音楽であるというフリップの意見は本当だ。ロック・ミュージシャンはジャズ、クラシック、民族音楽、現代音楽、そしてポップに至るまで、あらゆる領域の音群へ手をのばして自らのヴォキャブラリーを鍛えることができる。しかし、ジャズ・ミュージシャンやクラシックの演奏家より限定された思考で自己の発展を考える。これは形式化されないことでダイナミズムを保持するロックの本質的な特性といえるだろう。」(p.202-203)
キング・クリムゾンの音から「ロック」へ、そして再び「ロック」からキング・クリムゾンへ。
「音楽の起源となるべき、そのミュージシャンのライフ・スタイル、そして内的な目的意識、そこから生じるヴォキャブラリー…。ロックのもつある種の柔軟性を、より能動的で創造的な次元へと推し進めようとするロバート・フリップの組織的志向の結果がキング・クリムゾンの音楽である。」(p.203)
ここまでなら、まぁ小難しい言い方してるけど、ロック大好き!キング・クリムゾン最高!なのね、…と読者はうんうんとうなずいて終わりかも。しかしそれでは終わらない。
「何はともあれ、キング・クリムゾンの当事者であったロバート・フリップもそして私たち自身も、今は1981年というクリムゾンの存命時とは全く異なった時間軸の上にいる。七年近くにも及ぶ時代的隔たりの後には、当時とはまた違った音楽のあり方、可能性が開け、ロバート・フリップも自らその方面に精力的に取組んで興味深い成果をもたらしている。クリムゾン体験が真に自覚的な発展へと収斂されるためには、諸者各位の時間を超えた客観的知性による現状洞察が必要とされるのである。」(p.282)
やっぱりさっぱりめんどうだけど、北村さんはどうやら「クリムゾン体験」を「自覚的な発展へと収斂」させるらしい。どゆこと?

YBO² がカバーした「太陽の王子 ホルスの大冒険」主題歌

『キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて』の執筆から5年後、「ドグラ・マグラ」で鮮烈なデビューを飾った YBO² は間髪入れずに『太陽の皇子』と題された12インチ33回転のミニアルバムを発表する。そのA面に収録された6分33秒の「太陽の皇子」はビートルズとピーター・ガブリエルのタイトルを組み合わせた下の3部構成をとる題名の曲で、キング・クリムゾンを想わせるメロトロンも聞こえてくる。

ⅰ) Here Comes The Sun, Here Comes The Flood
ⅱ) HORUS
ⅲ) On The Way To Heaven's Eye

ちなみに「太陽の皇子」とは、高畑勲の演出による劇場用アニメ映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』の主題歌をカバーしたもので、オリジナルはキング・クリムゾンが結成された1968年に発表されている。これって偶然ですか?

というわけで、キング・クリムゾン、ロック、68年、プログレ… なんて追いかけてみても、「YBO² がなぜアニソン?」という謎は深まるばかり。どないしよぅ?

カタリベ: ジャン・タリメー

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