『リチャード・ジュエル』 日本のネットリンチを思わせるえん罪事件

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 アトランタ五輪で起きた爆発テロ事件をテーマにした実録ドラマ。さえない警備員のリチャードが、爆弾の入ったカバンを発見したことがきっかけで、メディアやFBIによって事件の容疑者にされてしまうという、実話を基にしています。ヒーローのような活躍をしたはずなのに、たくさんの命を救ったはずなのに、突然、メディアも一般の人たちもみんなが彼をバッシングする様子は、日本もアメリカも全く変わらないんだな、ということを感じました。特に最近は、誰か有名人が捕まるだけで、有罪判決も出ないうちから大バッシングを浴びせる日本特有のネットリンチにものすごく似ていて、映画の中でもそのイヤーな感覚が見事に表されていました。そして怖いのは、いざ自分が当時の状況だったら、きっとリチャードのことを疑ってしまっていたんだろうな、と感じてしまったこと。色々と考えさせられました。ネットリンチが続く日本だからこそ、観るべき作品だと思います。

 面白いのは、リチャードと、その最高の相棒である弁護士との会話に最高のユーモアを加えたところ。脚本も秀逸で、リチャードを最初は馬鹿にしていた弁護士が友情に目覚めていく姿も、観客がだんだんリチャードのまっすぐさに気づいていくスピードが同じだからこそ心地いい。ちなみに弁護士を演じるのは、映画『スリービルボード』で保安官役を演じたサム・ロックウェル。彼の人間味あふれる演技も注目です。

 そして、半端じゃないスピードで名作を作り続けるイーストウッドは今年で90歳! そんな年齢を感じさせず、監督としての才能はとどまるところを知りません。★★★★★(森田真帆)

監督:クリント・イーストウッド

出演:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ

1月17日(金)から全国公開

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