【社説】WTO機能不全 自由貿易の危機回避を

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 年明けに設立25周年を迎えた世界貿易機関(WTO)が最大の危機といえる状況下にある。

 最終審に当たる上級委員会の委員数が、審理に最低限必要な3人を割り込んだ。米国の反対で後任選びがままならず、この1カ月間、貿易を巡る紛争処理が機能不全に陥っている。

 WTOはもともと、大恐慌後の保護貿易が第2次世界大戦につながった反省が端緒となっている。この原点に立ち返り、自由貿易の危機回避へ協調を図らなくてはならない。

 164カ国・地域が加盟する。「自由貿易の旗手」を自任する安倍政権は各国と連携し、一日も早い機能回復に向け、努力すべきである。

 米国はトランプ氏が政権に就いた2017年に一転、WTO上級委員会の欠員補充に異を唱えだした。そのあおりから先月、定員7人に対して委員が1人きりとなった。全会一致の大原則を逆手に取り、我を通す手口は穏やかでない。

 WTOは01年に始まった新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が頓挫し、通商ルールの策定に支障を来していた。ルール違反を裁く上級委員会が立ち往生してしまえば、司法、立法の二大機能が停止してしまう。

 トランプ政権は、上級委員会の審議の長期化などを理由に脱退までちらつかせ、WTOを揺さぶり続けている。「米国第一」の貿易交渉を進めたいのに、目障りだと言わんばかりである。不満があるなら、改革にこそ積極的に乗り出すのが大国としての務めではないか。

 確かに、WTOが問題を抱えているとの米国の指摘には一理ある。発足当初と比べ、世界経済の情勢も変化している。中国は世界第2の経済大国に成長していながら、WTOではいまだに途上国として補助金などの特例を受けている。

 改革自体は、日本政府も否定しているわけではない。東京電力福島第1原発事故を受け、韓国が続ける水産物の輸入禁止を巡り、WTOの「一審」で勝訴しながら、上級委員会で敗訴した。審理が不十分と断じながら、差し戻す再審の仕組みはなく、とても承服し難い。

 今年1月発効した日米貿易協定も、9割程度の関税撤廃を求めるWTOルール違反の疑いが強い。日本側の主要輸出品である自動車を自由化の対象から外したとみられるからだ。米国は、日本の鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税も発動中だ。これも違反の可能性が高い。

 戦後日本の通商政策は、多国間交渉による自由貿易を旨としてきた。WTOが機能不全のままでは、大国の主張がまかり通る状況に陥るのは明らかだろう。国際的な通商ルールを守るため、より公正な紛争解決機能を求めていくべきである。

 昨年6月、20カ国・地域首脳会議で議長国を務めた日本は、「WTO改革が必要」との合意をまとめた。具体的な改革の道筋を示す必要があろう。

 当然、改革案をまとめるには時間がかかる。としても、その間に、紛争処理の機能停止が続く事態は避けねばならない。全会一致の原則に加え、多数決の採用も検討してはどうか。

 無論、世界最大の経済大国である米国側の理解を粘り強く、得ていく努力も決して忘れるわけにはいかない。

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