東芝とToMMo、量子暗号通信技術を活用して全ゲノム配列データの効率的な伝送を実現

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ゲノムデータは、個人の特徴と密接に結びついた情報だ。一定の条件下では法律的にも個人を識別する個人情報として扱われ、ヒトのゲノム情報はおよそ32億塩基で構成されている。現在の次世代シークエンサーを活用した高精度の解析では、32億塩基の30倍相当の900億塩基以上のデータを取得し、同時に複数人を解析するため、次世代シークエンサーが一度に出力するデータは数百ギガバイトを超える。

このように、大規模で秘匿性の高いデータの保管と移送には、非常に高レベルのセキュリティが求められる。これまでのゲノム研究では、大規模なゲノム配列情報を移送するにはキーロック付きのハードディスクをセキュリティボックスに入れ、物理的に運搬する方法などが行われていたが、コストと時間が課題であった。

機密データのバックアップや高い秘匿性が求められる医療データの暗号伝送等への導入が期待されているのが、量子暗号通信技術だ。これは、量子力学の原理に基づいて、あらゆる盗聴や解読に対して安全な暗号通信を実現する技術である。しかし、量子暗号通信技術による鍵配信速度は、現時点で最大でも10Mbps程であり、全ゲノム配列データのような大規模で秘匿性の高いデータ伝送の活用には課題があった。

そこで、株式会社東芝と東北大学東北メディカル・メガバンク機構(以下、ToMMo)は、東芝および東芝欧州研究所傘下のケンブリッジ研究所が開発した高速量子暗号通信技術を活用して、数百ギガバイトを超えるデータ量の全ゲノム配列データの効率的な伝送を実現した。

両社は、大規模かつ秘匿性の高いゲノム解析データを伝送する際、大規模データを一度に伝送するのではなく、次世代シークエンサーのゲノム解析データ出力を量子暗号によって逐次暗号化・逐次伝送する技術を開発した。

これは、次世代シークエンサーが出力するゲノム解析データと、量子暗号装置が出力する暗号鍵を、暗号技術ワンタイムパッドによって逐次暗号化してリアルタイムに伝送を行うものだ。次世代シークエンサーの動作に合わせて、逐次データ伝送を行うことで、大規模な全ゲノム解析データの伝送処理での遅延を短縮することが可能になった。

両社は、同技術を活用した伝送実証を2019年7月から8月まで行った。同実証は、東芝ライフサイエンス解析センターに設置した次世代シークエンサーを用いて、ToMMoまでの約7km間に敷設された光ファイバー専用回線を介して行われた。

ToMMoが保有するDNA検体を対象とした、全ゲノム配列解析から出力される全ゲノム配列データを、量子暗号通信によって逐次暗号化・逐次伝送し、解析処理完了から遅延なく、リアルタイム伝送することができ、実用レベルであることを確認した。

なお、同研究の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」によって実施された。