「選びたくない人にマイナス1票!」の選挙だと投票率は上がる?世界の選挙を事例に

12年に一度、統一地方選挙と参議院議員選挙が同一年に行われる「選挙イヤー」として注目された昨年の参院選では、全ての年代で投票率が前回(2016年)の参院選を下回る結果となりました。
特に10代有権者の投票率は、18歳選挙権の下で実施される初めての国政選挙となった2016年の参院選から10%以上低下しており、若者の政治参加を促す仕組みづくりの重要性が高まっています。

でも、若者に聞いてみると「投票したくても投票したい人や政党がない」といった声も聞こえてきそうです。
では、もし、当選させたくない人にマイナス1票を投じることができるようになったら投票に参加する人は増えるでしょうか。

「投票したい人がいない」という悩みの解決策になるか。【反対投票】

台湾に拠点のあるNegative Vote Associationは、賛成票の代わりに反対票を投じることのできる仕組みの実現に向けた活動を行っています。

同団体の提唱する反対投票(Negative Vote)は、有権者は1票をもち、特定の候補者への賛成票を投じるか、賛成票の代わりに反対票を投じる権利を持ちます。

図表1にもあるように、反対票を投じることで当選結果が変わってくる可能性も示されています。

図表1_反対投票の概要

反対投票を導入する理由として3点が主張されています。

・賛成だけでなく反対を主張できることも民主主義における基本的な権利であること
・反対投票を導入することで投票に参加する人が増えること(その結果、賛成票だけの現在の選挙制度で選出され「民意の代弁者である」と感じている議員が、実は多くの計測されていない反対票が存在している事を知り、謙虚になる可能性がある)
・反対投票が過激派の影響を軽減すること

なお、同団体がアメリカの世論調査会社に依頼して行った調査では、反対投票が実現していたらアメリカ大統領選挙の投票率が4.4%ほど増加し、960万人の有権者が新たに投票に参加することになるとの結果が示されています。
同様に台湾の総統選挙では投票率が5.4%ほど増加する可能性も示されています。

当選させたくない人が当選しないように働きかける活動【落選運動】

反対投票はまだ実現されていませんが、現実の世界で実現している近しい活動に落選運動があります。

2000年代前半に韓国で始まったとされる落選運動では、特定の政治家が当選しないようにするための働きかけが行われます。日本では、2000年代初めに最初の取り組みが行われたとされており、最近では平和安全法制への反対活動のなかで大々的に実施されました。

また、昨年は高校生とされる人物がtwitterでつぶやいた内容に関し、当時の文部科学大臣が「公職選挙法に抵触する恐れもあり、適切であろうか」と問題提起をした際に、「落選運動は選挙運動には該当せず、18歳未満の者も行うことができる」旨のコメントが有識者などからあったことなどでも話題になりました。

関連記事>>選挙運動と政治活動の違いって?高校生は何をしてOK?

当選させたくない人へ投票しないですむ仕組み【インド、オーストラリア】

実際に運用されている選挙制度ではどうでしょうか。

「世界最大の民主主義国家」と言われることもあるインドでは、「誰も支持しない(none of the above)」を選び、投票することができます。インドの投票は電子投票機(Electronic Voting Machine)を用いて実施されています。その際、画面上に全ての候補者の名前が記されており、誰かを選ぶか、上記の「誰も支持しない(none of the above:表示されている候補者のいずれでもない)」を選択することができるようになっています。
最近の選挙では「誰も支持しない」が多くの支持を集めることもあり、「誰も支持しない」が最も多くの票を獲得した場合は再選挙を実施するといったルールを定める州も出てきています。

義務投票制を採用しているオーストラリアでは、優先順位付き投票制度が採用されています。有権者は全候補者に対して、当選して欲しい順番に順位をつけて投票します。「1番」と書かれた票を集計したときに過半数をとる候補者がいなかった場合に、最も票の少なかった候補者に投じられた票について、2番目の順位をつけられていた人に振り分ける。以下、獲得票数が過半数を超える候補者が出るまで票の振り分けを繰り返す、といった形で、投票した人の票ができるだけ当選させたくない人につながらないような仕組みが実現されています。

図表2_優先順位付き投票制度(オーストラリア)の概要

選挙に参加する人が少ないことで生じる問題も

私たちは選挙を通じて私たちの代わりに身の回りの様々な課題の解決を行う政治家、議員を選んでいます。けれども、その投票に参加する人があまりにも少ないと、選ばれた議員は私たちの正統な代表と言えるのかどうか、といった疑問につながってしまいます。
また、「投票したいと思えないから政治に関心を持てない」と政治に無関心になる人が増えることも懸念されます

ご紹介した取組みには良い面も悪い面もありますが、選挙や政治に関心を持つきっかけになるのならば検討してみる価値があるかもしれません。選挙の仕組みは国によって多様性があります。これからの私たちの社会を考えたときに、皆さんはどのような仕組みが望ましいと思いますか。

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