サムスン「テクノロジーは手段であり、人の体験が重要な時代へ」 -CES2020レポート3

CES2020の最初のキーノートはサムスンだった。

CES2015の同じ場で サムスンは、サムスン製品の全てを2020年までにコネクテッド対応するというコミットメントとともにIoT時代の幕開けを宣言した。そこからスマート時代からコネクテッド時代へトレンドが変わったことは記憶に新しい。そしてサムスンは2019年9月のIFAにおいて、全ての製品がコネクテッド対応していることを立証していた。

2020年代最初のCESで、有言実行のサムスンは2020年代は「Age of Experience」になると宣言。5年前のスマートからコネクテッドへ、という変化とは異なったレイヤーでのテーマを設定してきた。

これは手段の話から、提供価値を軸に転換しなくては、新しい取り組みは拡がっていかないということに対するメッセージでもある。

プロダクトヒーローである家電メーカーが発信するにはとても勇気がいるテーマではあるが、これからのイノベーションのためにとても重要な視点だ。

2020年代は体験の時代になると宣言

そしてこの裏側には、デバイスのAI化がある。

CESを主催するCTAからもIoTは「Intelligent of Things」になると発表していたが、これはデバイスのAI化が進むことを表している。

クラウドに委ねるべきことは委ねるのだが、デバイス自体にインテリジェンス機能を有し、デバイス単体でも状況に最適化する機能が搭載されていく。その結果、価値のあるExperienceが次々と生まれていく時代になるという。

サムスンは世界7カ所にAI研究センターを持つ

価値のある体験とは、サムスンのキーノートにおいては「マクロな課題だけでなく個人それぞれのライフスタイルを理解し、個人それぞれのニーズに対応する体験」ということだ。

これからは、みんなの体験ではなく、パーソナライズされた一人ひとりの状況に合わせたタイムリーな体験提供ができるようになるが、そのためには生活者のデータが必要になる。

サムスンはパーソナルなデータ、公共のデータ問わず利用可能なデータの中から、状況に応じて必要なデータを活用し、最適化したフィードバックをしていくための取り組みを進めている。公共のデータをリアルタイムで利用するためには5Gが必要である。そして、パーソナルデータは昨今のトレンドも抑えていて、基本的にはユーザー本人が管理するもので、セキュリティに関してはビジネスユースで実績のあるSamsung Knoxなどを活用するという。

ビジネスユースがメインだったKnoxをコンシューマー向けに活用

家から出かけるときに、出発すべき時間の前に、目的地までの行き方をスケジューラーから見出し、知らせてくれる。目的地までの移動にかかる時間とコスト、労力などを最適化することができるため、人それぞれにダイナミックプライシングの提示ができるようになる。

ここでのダイナミックプライシングは、単純な金額の話ではなく、その人のライフスタイルから、時間最優先なら高くても良いという人に対しては、最短の移動方法を提示し、必要なら車を呼ぶところまでやってくれるようになるということだ。工事や事故で渋滞が発生している場合は途中までは車で、途中から電車という提示もあるだろう。

一方、時間がかかっても安い方が良いという人は、これまで通りの乗り換え案内でも良いのかもしれないが、人それぞれに対してのバランスが重要である。

5G時代には移動ルートのダイナミックプライシングが実現するという

フィットネスデータから、食生活を最適化する仕組みも考えられる。

消費カロリーやふだんの活動などを把握し、冷蔵庫内の食材から栄養管理レシピを提案するようなことは現状商用化されているものでも可能だが、これからは対象となる人が欲しているものであり、その時に食べると良い栄養素が入ったメニューが提案されるようになる。ライフスタイルや好みを把握しておかなかったこれまでは、データから栄養素的に最適と思われるレシピの提案をするため、「そんなの食べたくない」という状況が何度も見られた。

これからは健康を考えた「そうそう、これが食べたかったんだよ」というレシピが提示されるようになるとしたら、それは新しい体験となり、無くてはならない価値となるだろう。

ボール型パーソナルアシスタント「Ballie」

今回2つのユニークな製品が発表された。

パーソナル・アシスタント Ballie

1つはパーソナル・アシスタントのBallieだ。

Ballieはテニスボールや野球のボールのような大きさで、搭載されているカメラで人を認識し、コロコロと人を追尾する動きを見せる。これまでの家庭用ロボットのような直接的な会話ではなく、家電の操作と家電の動きで人とコミュニケーションをすることをコンセプトにしていた。

カメラは人の認識だけでなく状況把握も行えるようになっていて、家主の不在時にペットが床を汚すと、Ballieが汚れたことを認識してロボット掃除機に掃除を指示するようなデモも行われていた。人が家電操作をせずに快適な環境を構築する新しいアプローチと捉えることもできる。

XRパーソナルトレーニングを提供するGEMS

フィットネス・ウェアラブル GEMS

2つ目はGEMSというフィットネスウェアラブルだ。

ウェアラブルといっても少し毛色が異なっていて、運動アシストウェアというべきものだ。体の動きがメニュー通りに動いているかということを確認できるだけでなく、動きをアシストすることでストレッチのアシストや姿勢の矯正などにも使えるという。GEMSをホームフィットネスで利用する際はスマートグラスを装着し、バーチャルなフィットネストレーナーがパーソナルトレーニングをしてくれる。テクノロジーがより良くしてくれる領域、カスタマイズしてくれる領域が次々と拡がっている。

またGEMSはフィットネスだけでなく、足腰が悪くなったシニアの歩行アシストツール、もしくはリハビリツールとしても活用できる。人が本来もつ力をアシストする、復活させる、トレーニングしてより良くしていく、ということと、その結果得られる体験が、これからのテクノロジーがもたらす価値となる。

改めて人を中心して考え直さなくてはならないということを強調

サムスンは今回のKeynoteを通じてテクノロジーは手段であり、意味のある体験をもたらすことが重要だと良い、そして「Open Collaboration. Dream Big, Defy Barriers. Together for Tomorrow.」という言葉で締めくくった。

サムスンだけでなく、ここ数年、商品として、強烈なインパクトを与えるものが出てきていない状況が続いているが、見るべきところはモノではなく人になっているということは間違いないだろう。

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