低い関心 意識醸成が鍵 第2部 模索する医師会 (7)障壁

宇都宮市医師会に返送されたアンケート。医師らの気付きが細かく書き込まれている=2019年12月20日午後、同市医師会館

 東京都文京区、江戸の大名庭園「六義園(りくぎえん)」のかたわらに日本医師会館はある。2019年12月22日、同会館で開かれた第1回日本地域包括ケア学会。会場の大講堂に入りきれない医師らが、別室のモニター越しに熱い視線を送った。

 記念すべき最初のシンポジウムのテーマが、「社会的処方のあり方を考える」だった。

 「社会的処方を文化にすることを大事にしながら、制度にしていく視点も重要だ」「医療者に経済的なインセンティブはあるのか。社会的な意義があるから取り組んだ方がいいと捉えるのか。国民的な議論にする必要がある」 

 国内外で社会的処方に取り組む医師らが、活動報告を通じて持論を展開した。

 パネリストの一人で、研究者として社会的処方の論考をいち早く始めた慶応大大学院の堀田聰子(ほったさとこ)教授(国際公共政策)は社会的処方を推進する宇都宮市医師会の「在宅医療・社会支援部」に関心を寄せる。医師会を挙げた取り組みは全国的にも例がない。

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 市医師会が注目を集め始める一方で、会員の反応は鈍い。

 「目が見えずに朽ちた家ではって生活している人がいる」「けがをした男性が5カ月間も自宅の2階から下りられなくなっている」

 ある男性医師はそうした患者を、主治医意見書を通じて適切な治療や介護サービスにつないできた。医師や看護師、メディカルソーシャルワーカー、リハビリ担当者など病院内の全職種で毎日欠かさず症例検討会を開き、気になる患者を取りこぼさないよう心を砕いている。暮らしぶりが見える在宅医療と社会的処方の相性の良さも実感している。

 それでも「社会的処方は、医師が中心になってやることではない」と切り捨てる。

 高齢化に伴う患者の増加で医師の多忙感は増すばかり。開業医であれば、経営者としての立場もある。そもそも、医学部で学んだのは目の前の患者の病を治すこと-。

 ましてや宇都宮市内で在宅医療に取り組む医師は多くない。病院で患者を待ち受ける外来の医師にも同じ意識を求めることは「難しい」と代弁する。

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 関心の低さは、市医師会が実施したアンケート結果からも明らかだ。会員617人に健康格差や社会的処方について尋ねたところ、回答者は70人。回答率は1割をわずかに超えるにとどまった。

 ただ、収穫もあった。学会翌日、19年最後の第6回社会支援部会。「回答率は低いが、回答してくれた人は熱心に書いてくれている」。結果を手にしたメンバーたちは納得した様子でうなずき合った。

 患者の社会・経済的背景に関する質問には、児童虐待の可能性や衛生状態、経済的事由での受診抑制など、医師の気付きが細かく書き込まれた。

 地域に望む社会資源を問う質問にも「貧困や家庭内暴力、精神障害などの問題をワンストップで相談できる窓口」「発達障害者の就労支援事業」など、ハード・ソフト両面で具体的な回答が並ぶ。

 市医師会は今後も同様のアンケートを会員に行うことで啓発を図りたいと考える。医師の意識の醸成をいかに図るかが、成否を左右する。

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