地域との相乗効果探る 第2部 模索する医師会 (8)連携

社会的処方をテーマにした多職種による勉強会。グループ討議をする参加者=2019年12月3日夜、宇都宮市若草1丁目、とちぎ福祉プラザ

 厳しい指摘だった。

 「正直申し上げて、わたしたちにとって最も連携が取りづらいのは医師だと思います」

 2019年9月28日、宇都宮市内で開かれた「社会的処方」をテーマにした多職種連携の研修会は、介護職や医療職など約50人が参加した。その会場で1人のケアマネジャーが講師役の医師にこう現状を訴えた。

 講師を務めていたのは医師の関口真紀(せきぐちまさのり)さん(64)。宇都宮市医師会「在宅医療・社会支援部」のメンバーの一人だ。

 「市医師会が社会的処方をやろうということですが、上から目線で『やれ』ということではありません。皆さんの中に、交ぜてください、ということです」。関口さんは穏やかな口調で参加者に理解を求めた。

 貧困や孤立など患者が抱える「健康の社会的決定要因(SDH)」に医療従事者が着目し、社会資源につなぐのが社会的処方の仕組みだ。医療と他分野の連携がなければ成り立たない。

 しかし、簡単ではない。在宅医療や在宅介護などの推進で連携の必要性が強く指摘されてきた医療と介護でさえ、壁がある。

 「病気に生活は関係ないと言う医師はまだまだいる。その中でケアマネやヘルパーなどとつながろうとする医師は少ない」。別のケアマネジャーはこう切り出した。

 何でケアマネが来たんだ-。昨夏、新たに担当した70代の女性と病院を訪ねると、医師は居丈高に言ったという。

 「女性の生活を支えるために病状を知っておきたかったが、医師に話を聞ける雰囲気ではなかった」

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 一方で、医師との連携が必須となる社会的処方という取り組みに、期待の声もある。

 ケアマネジャーの砂川由美子(すなかわゆみこ)さん(58)は、多職種が集い情報交換や医療・介護などについて論議を深める勉強会の事務局に携わる。社会的処方をテーマにした勉強会に参加し「医師の言うことは聞くという患者は多い。医師がヘルパーや訪問看護師たちと情報を共有すれば、効果のあるものが処方できる」とみる。

 「医療が在宅に降りてきたということでしょう」。そう話すのは、県内120法人が加盟する「県社会福祉法人による『地域における公益的な取組』推進協議会」の岩崎正日登(いわさきまさひと)さん(59)だ。医療従事者が病院内に限らず地域へ目を向け始めたことに手応えを感じている。

 社会支援部との連携を見据え、相談事業をはじめ加盟法人の子ども食堂や居場所づくりなどの情報を提供することを検討するという。社会支援部に協力を求め、講演会も計画中だ。

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 社会支援部の医師千嶋巌(ちしまいわお)さん(39)は、市医師会の取り組みが「社会支援部のスタンドプレー」と映り、周囲と協働できなくなることを懸念する。

 社会的処方は、専門職の連携だけでなく市民の理解も欠かせない。医師たちはそのために奔走する。裾野は広い。

 (第2部終わり。この連載は健康と社会的処方取材班が担当しました)

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