ヤクルトOBによる投げ方教室から得る「非認知スキル」 子供の未来を作る試み

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ヤクルト投げ方教室行った球団OBの河端龍さん(右)と度会博文さん【写真:編集部】

投げ方低下が課題、都内の小学校で投げ方教室を多数実施している

 東京ヤクルトスワローズが都内の小学校などで行っている「投げ方教室」を取材させてもらった。この日は足立区栗原小学校の1~3年生が対象で、それぞれ、通常の授業の時間を1限ずつ使い、試合運営グループの元内野手の度会博文さんと広報部の元投手・河端龍さんが先生。私が見学したのは2年生の授業だった。

 グラウンドに出てきた子どもたちは、ユニホーム姿の2人を見ていつもの授業とは違う空気に、これからどんなことが起こるんだろうとワクワクしている様子が見て取れた。河端さんからなぜこの授業をするのか、さらに「元気で大きな声を出す」「ボールを怖がらず、ボールとお友達になってほしい」「コーチが話をしているときは、目を見て話を聞く」という3つの約束が話された。

 その後はテンポよく、投げ方のコツが教えられ、最後には赤白チーム分かれて、どちらがより遠くに飛ばせるかという対決も行われ、その対決の前には子どもたちだけでの作戦会議も実施された。45分間授業を受けた子どもたちの表情は、苦手だった子には自信がつき、得意だった子にはさらに目の輝きが加わっていた。

 度会さんも、河端さんも思いは1つ。投げ方教室を通して、元気な子供に育ってほしい、ということだ。

 もちろん、この活動を通して野球やスワローズに興味を持ってくれたら、とてもありがたい。でも、野球をしてほしい、ファンが増えてほしいというのは、1番の願いではない。野球教室が、内気な子が元気に社交的になるきっかけになってくれたら嬉しいのだと言う。

「相手の目を見て、話を聞くこと」なども、日頃から先生が言っていることと同じことかも知れないが、自分たちが伝えることによって刺激になったり、いつもとは違うとらえ方をしてくれたりすることで「成長」してもらえたら嬉しい。さらに先生方にも、今後「同じことをプロ野球選手も言っていたでしょ?」と、指導しやすい環境につなげていってもらえたらいいなという思いも持っている。

 子どもたちの、最初の緊張したような「よろしくお願いします」と、最後の自信に満ち溢れた「ありがとうございました!」という声の違いや表情の変化が2人に何よりの活力を与える。児童1人1人の感想をまとめたものをもらうことも多いが、その内容はもちろんのこと、書いてくれる時に子どもたちはきっと、思いを伝えようといつもより丁寧な字で書いてくれているはず。河端さんは「そういう機会が増えれば字も上手くなるだろうし、物事を整理して書くということにもつながっているはずだから、それも教育や指導の1つに結びついてくれている気がして、いつもとても嬉しくなります」とやりがいを感じている。

取材者として、1児の母としても見た「投げ方教室」の魅力

 私は今回の「投げ方教室」を、1児の親としての目線でも見ていた。そして、この授業には子どもたちの将来に役立つ学びの内容、将来の幸せな生活に結びつく「非認知スキル」を向上させる指導がぎゅっと詰まっていると感じた。

 国語や算数といった、普段の授業で得ていく基礎学力や専門知識=「認知スキル」はもちろん大切だ。しかし、どんな環境下であってもそういったスキルをうまく活用し、幸せな大人になっていくための、コミュニケーション力や誠実さ、想像力、協調性、忍耐力といった「非認知スキル」の大切さが、今、世界でも、日本でもとても注目されている。

「投げ方教室」の中での非認知スキル獲得の時間の1つは、授業の最後の方で行われるチーム対抗戦前の作戦会議の時間を見ているときに強く感じた。子どもたちはその時間を通して、自分の考えをきちんと伝え、仲間の話を聞き、得意な仲間に助けを求め、より良いものをチームとして作り上げていっていた。作戦会議の意義を河端さんは「自分で考える力を付けたり、復習の大切さを感じたり、得意な子から苦手な子に教えてあげるときの言い方の勉強になったり、そしてそれはのちの子どもたちの会話にも活きてくるはずだから」と説明する。まさに、子どもたちはとにかく楽しみながら、コミュニケーション力や人と協力して何かを作り上げる力、違いを見つけて認め合い成長するという力をつけることができる時間なのだ。

 度会さんや河端さんは投げ方教室が専門ではなく、他の業務も多岐に渡っているため、毎日のように学校をまわることはできないし、大々的に募集をかけられないの現状。自分たちが稼働できる範囲でしか、活動ができない。今、おそらく”日本一予約が取れない授業”といってもいいかもしれない。

 未来は今の続きにある。子どもの時の素晴らしい出会いや体験は、将来に良い影響を及ぼしてくれる。親や身近な先生方だけでなく、子どもの成長や未来の幸せを願って活動してくれる人たちがいることのありがたさを実感できる授業だった。(新保友映 / Tomoe Shimbo)