サイン盗み? 「二塁走者のリードがおかしい…」巨人ベンチがすぐに取った対応策

サイン盗みで波紋を広げたアストロズ【写真:Getty Images】

かつては名投手・槙原氏も被害に?投手と捕手のサインで複雑化

 MLBではアストロズのサイン盗み問題の波紋が広がっている。自軍や相手を分析するスコアラーにとっても大きな問題だ。巨人やWBC侍ジャパンのチーフスコアラーを務めた三井康浩氏もベンチにいて、その危機に直面し、様々な対処法をしてきた。

 三井氏は長嶋茂雄巨人終身名誉監督、原辰徳監督らの下でデータを分析し、ベンチに入って、戦略を立ててきた。その確かな目で適切な助言を送り、松井秀喜氏、高橋由伸氏、二岡智宏氏、阿部慎之助氏らからの信頼も厚い。そんな“名スコアラー”でも疑問に感じたことがあった。

「昔の話ですが、例えば、相手のセカンドランナーのリードが明らかに違うことがありました。直球の時は頭の位置が高かったのに、変化球の時は腰をかがめて、頭の位置が低くなったり……同じ選手なはずなのに、違いが出たりしていました」

 他にもランナーコーチャーが声に出して、打者に球種を伝えることが禁止されても、そのコーチャーの立つ位置によって球種を教えることも不可能ではない。しかし、決定的な証拠があるわけではないため、あくまでも“疑問”。審判に言ったところで何も始まらない。今回のMLBでは証拠があったが、“疑問”の場合は自分たちで対策を施さなくてはならない。

「ベンチはやはり神経質になります。もしも、自分が(サイン盗み疑惑を)感じたら、まずは監督に伝えて、これまでのサインの“逆”を本当のサインにするとか……(サインを)指の足し算(の和)で球種を決めていたら引き算(差)に変えるとか、その場ですぐに対処して、相手を混乱させるようにします」

巨人やWBC侍ジャパンのチーフスコアラーを務めた三井康浩氏【写真:荒川祐史】

今でも警戒し、1イニングずつ変えるケースもある

 実際にやっていたかどうかは不明だが、過去には元巨人の槙原寛己投手が自分から出していた投球のサインが見破られているのではないかという疑問が出た時があった。その試合に勝つため、細心の注意を払う三井氏は長嶋監督にすぐに報告。そこからは槙原氏のサインだけでなく、捕手のブロックサインも加えたものに変えた。捕手が防具を触る回数が増えれば、それだけ相手もわかりにくくなる。

 今でも相手に見抜かれないように、バッテリー間のサインはイニング事に変えているケースもある。より複雑化しており、1回のサイン交換が長くなり、試合時間にも影響が出てくることもある。

 三井氏はスコアラー時代、血眼になってスコアラー室で資料を見て、選手たちにデータを提供してきた。時には成績に苦しむ選手たちを放っておけず練習にも付き合うなど、選手の努力も長年見続けてきた。

「サイン盗みは選手の努力を一瞬でパーにしてしまうことだってある。(今回のMLBのように)こういう行為がでてきてしまっては選手が本当にかわいそう。裏方も一緒だと思います」

 テクノロジーが進化し、いろいろな可能性が生まれているが、サイン盗みは選手、ファンにとってメリットはない。駆け引きと努力のぶつかり合いの野球がずっと続くことを期待したい。

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。2月6日の午後2時45分から東京・葛西BASE会議室でスコアブックセミナーを開催。(Full-Count編集部)

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