笠松将が主演! SEEDAの傑作アルバムを映画化した『花と雨』 ラップ指導・仙人掌とアツい想いを語る

(左から)仙人掌、笠松将

日本を代表するラッパー、SEEDAが2006年に発表したアルバム「花と雨」を原案とし、彼の自伝的エピソードも交えながら一人の青年の孤独と成長を描く映画『花と雨』が、2020年1月17日(金)より公開。劇中すべてのラップを自ら歌った主演の笠松将さんと、ラップ指導として参加した仙人掌(せんにんしょう)さんに本作への想いを聞いた。

シーンに衝撃を与えたSEEDAの傑作アルバム「花と雨」を実写化

―笠松さんがこの作品に出演したいと思った理由を教えてください。

笠松:もともとSEEDAさんの大ファンでしたし、ヒップホップやラップが好きで、力をもらったり励ましてもらったりしていたので、それをテーマにした作品に参加したいなという想いからです。

―もともとヒップホップがお好きだったとのことですが、撮影にあたってSEEDAさんのアルバム「花と雨」はあらためて聴かれましたか?

笠松:2019年4月ぐらいにこの作品への出演が決まったんですけど、そこからクランクインの9月までの約5か月は9割ぐらい、ほとんどSEEDAさんの曲しか聴いてないですね。ラップをするシーンがあったので、そういう意味でSEEDAさんのラップの特徴みたいなものを早く掴みたかったんです。でも、100回聴いて掴めるんだったらいいですけど、どれくらい聴いて、練習すれば掴めるというものでもないですし。なので、けっこう焦って聴いていた印象ですね。ただ聴き込んでいたぶん、台本をもらったときの理解は早かったと思います。

―本作は、説明的なシーンやセリフがあえて削ぎ落とされているように感じました。少ないセリフでの演技について、何か特別なアプローチはあったんでしょうか?

笠松:例えば、今回みたいなセリフが少ない主役ではなく、セリフが多い主役では出演時間が同じだったとしてもセリフのぶんだけ情報量が多くなるので、普通にキャラクターが出来てくるんですよ。だけどセリフが少ないってことは、“受け方”とか“佇まい”とかを自分で探していかないといけないので、吉田というキャラクターを掴むのが大変でした。ただ、現場に入れば“受け”なので自由度は高いですし、準備してきた、勉強してきたもので、そこに“いる”という感じでした。

正直、「これじゃわからないんじゃないか?」っていうこともありました。監督は「空気感だったりヒップホップのカルチャーを映像で表現する」っておっしゃっていて、その時はまだそこまでの答えは出ていなかったんですけど、実際に出来上がった作品を初めて観たときはドキドキとワクワクで冷静に判断できなかったです。でも、その興奮が少し冷めてきて、DVDをお借りして5回くらい繰り返し観たら、全部面白い。だから自信を持てるようになったんですけど、「ヒップホップとかラップとか分からない、聴いたことない」っていう人が観ても、ぼく(吉田)のことを追っているだけで、ストーリーで楽しめる作品になっていると思っています。そういう意味で、監督が言っていたことは、そこにつながっていたんだなと思いましたね。

―実際に完成した作品を観た感想はいかがでした?

笠松:一度見ただけですべてを理解できる作品ではないですけど、この作品を好きって言ってくれる人に恥ずかしい思いはさせないし、すごく上質なものができたなと思っています。自信もあります。10年後に観てもいい作品だっていう確信がある。ぼくの名刺というか、代表作になると思います。

―仙人掌さんが本作に参加した経緯を教えてください。

仙人掌:SEEDA君と家が近所だった時期が少しあって、その当時よく自分が住んでいた家にも遊びに来て下さってた事があったんです。最近何を聞いてるとか教えてもらったり、この動画面白くないですかって見せ合ったりしている中で、RAMZAと言う名古屋のアーティスト/ビートメイカーの音楽上にTAKCOM監督が映像を手掛けられている映像作品を一緒に見た事がありました。それに凄くSEEDA君が反応していたのを記憶していて、いつの間にか『花と雨』の映画を作って、TAKCOMさんが監督で、って感じに話が出来上がっていて。そういった経緯から自分に話が来たんではないかと思っています。

『花と雨』仙人掌

―ラッパーとして、SEEDAさんのアルバム「花と雨」から影響を受けましたか?

仙人掌:2006年にリリースされた時は、自分を含めた周りの人間も「日本のヒップホップの歴史上で完全なマスターピースが出た」っていう衝撃を受けましたね。なので、映画化されるのは必然だろうなって思いましたし、この作品に何かしらの形で関わることができるのは、本当にこの上ない光栄なことだと思っています。

―仙人掌さんは現在のヒップホップ・シーンを代表するリリシストの一人ですが、本作にはSEEDAさんのリリックがどう落とし込まれていると感じましたか?

仙人掌:撮影が進んでいくなかで、笠松さんがだんだんSEEDAくんに重なっていくのが感じられたんです。それは言葉にするというよりも、笠松さんが演じる吉田という役が「花と雨」の世界観にどんどん浸透していく印象があって。SEEDAくんが音楽に落とし込んだメッセージというのは、音楽で完結されているものだと思うので、それが落とし込まれたというよりも、笠松さんが演じていくことでどんどんリンクしていく感覚でしたね。

『花と雨』仙人掌

―本作では登場人物の多くが「リアル」であることを口にします。良くも悪くも様々な「リアル」が描かれていますが、仙人掌さんが特にリアルだと感じた部分は?

仙人掌:映像的な効果はたくさんあるのかもしれないですけど、この作品にはあまりギミックがないというか。自分は詳しくないので失礼かもしれないんですが、映画って伏線を張ろうと思えばいくらでもできるし、作ろうと思えばそういう仕掛けってたくさん用意できると思うんですけど、そういうことではなくて、笠松さんが演じる吉田に焦点が合っていて。どのシーンがリアルというよりも、作品自体が“そういうもの”になっているんじゃないかなって思いますね。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

「伝えたいことを歌う」笠松が役作りで見つけたラッパーの真理

―お二人は本作で初対面されたそうですが、お互いの印象はいかがでしたか?

笠松:SEEDAさんも仙人掌さんのことも、正直怖かったですよ(笑)。今では普通にお話ししたり、誕生日にハートを付けたメッセージをくれたり(笑)。“恩師”というか、お世話になった人ではありますが、やっぱりその時は……。自分が聴いている大好きなアーティストっていう意味でも怖いですし、見た目が怖そうじゃないですか(笑)。緊張しましたね。ただ、ビビって「大丈夫か?」みたいに思われるのもイヤだったので、できる限り普通にしてました。

仙人掌:普段、俳優さんと接する機会はまったくないので、はじめに控室に笠松さんが入って来たときは「これが俳優さんか~! 」って感じで(笑)。ぼくもすごく緊張してたんですけど、笠松さんは目の奥にすごく熱いモノがあったので、「この人で絶対、大丈夫だろうな」っていう、そういう印象でしたね。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

―仙人掌さんのご自宅でトレーニングされたそうですが、具体的にはどんなことを?

仙人掌:正直言って、技術的なことなんかは全然。こうしたほうがいい、ああしたほうがいいっていうのは、やり取りの中で多少はあったかもしれないですけど、あんまり言った覚えがなくて。自分に指導のオファーが来るってことは、そういうことよりも、いわゆるラッパーだったりヒップホップの世界観のノリを伝えることなのかなって。

笠松:それこそ技術的な指導は本当に最後の方なんですよ。そこからは本当に細かくて、最初から知りたかったと思ったりしましたね(笑)。一発目に「はい練習します」っていう時から、だいたいの曲は歌えたんです。それで、けっこう「ヨシ!」と思って行ったんですけど、全然ダメで。やっぱり恥ずかしいんですよ、もちろん緊張もしてますし、それをまた自分で聴かなくちゃいけないわけですから。そういうのもあったりして、もうどんどん緊張していくというか……。一度仙人掌さんのライブを観させてもらって、満員の観客席の後ろの方で観てたんですけど、そのとき仙人掌さんがステージで「なんで俺が10年間もヤバいMCって言われてるか教えてやるよ」って。

仙人掌:(笑)。

笠松:そしたら、地盤沈下するんじゃないかってぐらい会場が沸いたんですよ。それを見て、それこそ雰囲気とかノリとか、“ラッパーとは”っていうことを教わりました。ただ、そのときはまだ“カッコいいもの”っていうことしか教わってないんです。でも、その後ラップの練習をしながら話していて ― 今回はSEEDAさんが書いた曲をぼくが歌わせてもらっているんですけど ― 「ラッパーはみんな、自分で言いたいことを書いて歌ってる。人に書いてもらってる人なんて、ぼくの知る限りではいない。その人の言いたいこと、伝えたいことを歌う。だから、笠松さんも自分の曲だと思って歌え」って言われたときに、ライブの時の仙人掌さんとイコールになって「なるほど」って、確信に変わったんです。

仙人掌:はじめからある程度準備はされていたので、「歌えてますね」って感じだったんですけど、そこにまだ何か足りないものがある気がして。でも、笠松さんがおっしゃったみたいに、「そういうことか」になってからは録音されていくものとか、佇まいから何から全部変わっていったと感じています。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

―クランクインの前日にSEEDAさんとドライブをされたそうですが、ご本人と直接お話しされてみていかがでした?

笠松:SEEDAさんを通じて何人かの方に会わせていただいたんですが、その人が誰なのかは教えてくれなかったです。でも、何となく分かるんですよね。例えば、この人は東大を首席で合格して、今はどこどこの会社で働いていて、いくら稼いでてとか、言われなくても見ればだいたい分かるじゃないですか。それと同じで、その場の空気感だったり、この映画もそういうことなんだろうなと。SEEDAさんとその方がお話ししている時に「実は自分の映画を作るんだけど、その主役を笠松くんがやってくれるんだ」って、背中をパンと叩いてもらったりしたときはやっぱり嬉しかったし、それこそ光栄だなって。そうやってSEEDAさんの仲間に紹介してくれたことが、本当に嬉しかった。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

―同じ表現者として、SEEDAさんの生き方と笠松さんの俳優人生に重なる部分を感じましたか?

笠松:いまだにSEEDAさんがどういう人なのか分からないんですよね(笑)。劇中の吉田のことならわかるんですけど……本当に分からないです。

仙人掌:でも、似ていると思います。

笠松:本当ですか!?

仙人掌:根っこの部分が似てると思いますね。笠松さんは、ざっくり言うと“ヒップホップの人”だと思うんですよ。自分の気持ちをはっきり主張できるし、その場をまとめることもできるし、自分のルーツに対して誇りもあるし、自分が俳優だってことをレペゼンすることもできる。そういう意味で、かなりヒップホップなんじゃないかなって思うんです。だから性格とか容姿がどうこうっていうより、SEEDAくんを演じるならこの人以外に考えられないって今は思っていますね。

笠松:嬉しいですね……。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

―普段は架空の人物を演じることが多いと思いますが、今回は実在の方で、しかも現在も活躍中の方を演じるという、これまでにない経験だったわけですよね。

笠松:やっぱり、どこかでSEEDAさんに気を遣わなきゃいけないじゃないですか。それが最初気になって仕方なかったです。でも逆に、会いに行って話せるから、それでヒントを得て台本の解釈が変わった部分もあったりします。もちろん大変な部分もあったけど、ご本人がいらっしゃることで、より深くキャラクターを掘り下げることができました。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

―今回演じられた吉田はかなり直情的ですが、掘り下げていくなかで彼に最も感情移入できた部分はどこでしょう?

笠松:映画として吉田を主人公に置いて、ぼくにフォーカスしてくれているから、感情的に全部を言えているように見えるかもしれないですけど、多分、彼のなかでは全然なにも言えていないというか。もっと分かってほしいと思っているし、そういう意味ではすごく理解できます。

仙人掌:一度、都内のスタジオで、俳優、監督、プロデューサーのみんなで詰めて、それぞれの課題曲をレコーディングしたことがあって。その時は「イエーイ!」みたいな感じですごく盛り上がって、ちょっとしたレクリエーションみたいなことがあったんですけど、後日、笠松さんだけはそれを否定するわけじゃないんだけど、「ああいうのは違うと思うんですよね」って言っていて。その時に、この人は見てるところが一人だけ高いところにあるんだなって印象でしたね。そういう「俺は違うと思う」って言えるのもSEEDAくんぽいっていうか、一人になって違うこと考えてるところとかも似てるんじゃないかなと思います。

『花と雨』©2019「花と雨」製作委員会

―本作に出演されて、アルバム「花と雨」に対する印象は変わりましたか?

笠松:変わりました。SEEDAさんとか仙人掌さんの前で言うのは怖いんですけど、もう自分の曲だって思っちゃいますね(笑)。それは「オレの曲だよ」って女の子の前で歌うとかではなくて、音楽を聴いている時に、ふと「花と雨」が流れてきたら、「お!」ってなりますし、街中でも歌っちゃいます。ほかの人に「お前の曲じゃねえよ」って言われても、全然いいんです。ただ、小さい声で「これはぼくの曲」って言いたい(笑)。

仙人掌:堂々と言っていいよ(笑)。そう言ってほしいと思ってますよ、SEEDAくんも。

―最後に、この映画を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。

仙人掌:映像作品として、ぶっちぎりでカッコいいものになっていると思うし、そこに最終的にSEEDAくんとほかの音楽のスタッフが入って、最強の組み合わせになったんじゃないかなと思います。笠松さんをはじめ、俳優のみなさんは情熱をもって演じてらっしゃるし、全てのスタッフの方たちが一流の人たちだったので、変な先入観とかは持たずに、ただ楽しんでほしいです。

笠松:「花と雨」、SEEDAさん、ヒップホップの世界が好きな人は安心して観に来てほしいです。「花と雨」知らない、SEEDAさん知らない、ヒップホップの世界はわからないよっていう人も、これは一人の青年の一瞬を切り取った物語なんだと思って観てもらえれば。一人の男が何かを決断したり、何かを想ったりする物語なので、ヒップホップが分からなくても、作品の中でぼくが何を思っているのかを追いかけてくれれば、それだけで楽しめると思います。

『花と雨』は2020年1月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

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