ユース五輪で金…アイスダンス西山真瑚は17歳でカナダ一人暮らし

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西山真瑚選手

2020年が幕開けし、いよいよ東京オリンピックの開催も迫ってきました。ところで、いま本物のオリンピックが開催されているのをご存知でしょうか。

会場は国際オリンピック委員会(IOC)の本部があるスイス・ローザンヌ。オリンピックのお膝元で、『ローザンヌ2020・冬季ユース五輪』が1月9日に開幕しました。

ユース五輪(YOG)は、「世界の若者たちにオリンピック精神を養ってもらうこと」を目的に、夏季と冬季、それぞれ4年ごとに開催され、原則15〜18歳の選手が競う、いわば若者のための若者による五輪です。

運営も若者が中心になっておこないます。第3回大会の今回は、世界79カ国1900人が8競技81種目にエントリー。22日まで2週間にわたり熱戦が繰り広げられています。日本は7競技に過去最多の72選手を送っています。

YOGは、2022年北京冬季五輪の有望株を占う上でも注目度の高い大会です。注目は、フィギュアスケート・アイスダンス日本代表の西山真瑚選手(17)と吉田唄菜選手(16)のペア。

日本では羽生結弦選手や紀平梨花選手などを筆頭に「フィギュアといえばシングル」と想い浮かべる人が多いでしょうが、世界的に見ると、アイスダンスの人気は非常に高いのです。

4回転ジャンプのような派手な飛び道具ではなく、ペアがシンクロするステップやコンビネーションの美しさを重視する大人の競技というところが、欧米では魅力的に映るのかもしれません。

アメリカ、カナダ、ロシア、フランス、イタリアなどが強豪です。YOGでもその人気は高く、アイスダンスのチケットは早々になくなってしまいました。息子の晴れ姿を見ようとローザンヌ行きを楽しみにしていた西山選手のご両親でさえ、1試合のチケットを手に入れるのがやっとだったそうです。

そして、1月15日、各国の選手を抽選で8組に振り分けて競う「NOC混合団体戦」において、西山・吉田ペアは、ジョージアのペア、エストニアの男子シングル、ロシアの女子シングルと組んだチームで、見事、優勝! オリンピック金メダルを授与されました。

この団体戦のアイスダンスの成績は、ロシアやカナダ、アメリカの上位ペアを抑えての1位で、団体戦金メダルに大きく貢献したのです。

■団体金メダルにアイスダンスの強化は必須

西山・吉田ペアが彗星のごとく現れたのは、2019年8月のジュニアグランプリ・アメリカ大会。若さあふれるハツラツとした演技で、鮮烈な国際デビューを果たしました。正式にペアを結成してわずか半年での国際大会。吉田選手はアイスダンス選手としての実績があり、西山選手も6歳からシングルを始め、その技術と表現力には定評があります。

周囲の期待以上の完璧な演技で、なんと6位入賞を果たし、その後のジュニアグランプリ・イタリア大会でも6位入賞、全日本ジュニア選手権優勝と好調をキープ。これまで日本枠のなかったYOGのアイスダンス出場権を自らの実力で勝ち取りました。今回の金メダルは、まさに快挙です。

この西山・吉田ペアの活躍は、日本のフィギュアスケート界にとっても重要な意味を持ちます。なぜなら、2014年ソチ五輪からフィギュアスケートで「団体戦」が正式種目に採用されたからです。団体戦は男子シングル、女子シングル、ペア、アイスダンスの4種目の総合成績で争います。

フィギュアスケート最強国となるためには、他国に後れをとっているアイスダンスの強化は必須。2人にかかる期待は相当大きいのです。フィギュアのファンはそれを知っているのか、彼らを『うたしん』と呼び、競技会場では『うたしん、がんばれ!』という手作りのバナーを持って応援する姿も多く見かけます。

「オリンピックは夢の舞台。楽しんでやります」と語っていた西山選手。今回のYOGをステップに、日本にアイスダンス旋風を起こし、北京五輪では日本にぜひ団体戦金メダルをもたらしてほしいものです。

ユース五輪の会場

私は、シングルとアイスダンスの二足のわらじを履いて頑張っている西山真瑚選手が気になって仕方ありません。全日本ジュニア選手権で初めて演技を見て、すっかりファンになりました。

ペアの吉田選手を終始気遣いながら、常に笑顔を絶やさず、立ち居振る舞いもさわやか。そこで、4月から大学生になる17歳の日常と素顔をちょっとご紹介しましょう。

西山真瑚選手は2002年1月24日生まれ。6歳からシングルを始め、2012年に全日本ノービスB優勝、2016年にはジュニアで東日本選手権に優勝するなど、その才能は幼少の頃から知られていました。

憧れの先輩、羽生結弦選手を追って、高校進学と同時に親元を離れ、練習の拠点をトロントのクリケットクラブに移し、スケート漬けの毎日を送っています。

確かなスケーティング技術と、もって生まれた華やかさが強味。親戚に英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、高田茜さんがいます。高田さんの踊りはしばしば「sparkle(輝き)」と表現されますが、西山選手にも同じ印象を持つ人が多いでしょう。

「昔、茜さんに身体の動かし方を教えてもらった」という西山選手。2019年に同バレエ団が来日した際は、男性ダンサーと一緒に写真を撮り、彼らの姿勢を研究するなど、表現力の向上に余念がありません。

■憧れは羽生結弦選手

羽生選手について、西山選手は嬉しそうに語ります。

「羽生くんにすごく憧れているというか、羽生くんは本当にすごい! 練習から本気だし、集中力の合わせ方が同じ人間とは思えないのです。生で見たら、絶対に誰でもすごいと思うはず」

日本人スケート選手はみな仲良しですし、同じクラブで練習する兄貴分の羽生選手に何か相談したりしないのかと尋ねると、「『がんばれー!』って言われます」と、にっこり。

西山選手はこの春、早稲田大学人間科学部に、一般入試で見事に合格。早稲田は羽生選手が通った大学であり、将来、スケートのコーチになりたいという目標にもかなう勉強ができそうです。

近くに「羽生くん」という最高のロールモデルがいることが、西山選手の大きなモチベーションになっていることがうかがえます。

■シングルとアイスダンスの二刀流

西山選手は身長170センチ、体重57キロ。シングルの選手として、本人の理想とする体型はやはり羽生選手ですが、アイスダンスを始めて、最近すこし変化があるようです。

「自分は、スラっとした羽生くんみたいな感じが好きなんです。でも、世界基準で見ると、シングルでも自分は線が細すぎる。アイスダンスのトップダンサーを見ていると、女性をリフトすることもあり、みんなガッチリ、しなやかなんです。

それで、自分ももう少ししっかりした体型になった方が、遠くから見ても見栄えがするし、いろいろな曲のバリエーションにも挑戦できるなぁと考えて、ウエイトトレーニングを始めました」

シングルのトップスケーター、アイスダンスのジュニアのトップチームが同じリンクで切磋琢磨するトロントでの日々は、西山選手にシングルとアイスダンスの二刀流に取り組むことを決断させました。2018年、きっかけはクリケットクラブのアイスダンスコーチのアドバイスです。

「『オリンピック団体戦のカップル戦で成績を出せば、日本はメダルに届く。アイスダンスに挑戦することで、日本に貢献できるのではないか』と言われたのです。

日本では珍しいですが、クリケットクラブにはシングルとアイスダンスの二刀流でやっている人がたくさんいます。アイスダンスで世界のトップを目指しつつ、シングルも頑張ることで、日本におけるアイスダンスのイメージを変えたいと思いました」

アイスダンスのパートナーとなった吉田選手とは、近くで滑る、息を合わせるというアイスダンスならではの感覚に慣れることからスタート。「アイスダンスは『躍る』のがメインの競技です。相手とシンクロしながら、自分の良さをいかに出していくかが課題だと思っています」と、力強く語ってくれました。

現在は午前2時間、午後2時間の氷上練習をおこない、1時間ウエイトトレーニングという毎日が続いています。

全日本ジュニア選手権(新横浜)にて

「一人暮らしを始めて1年たちますが、練習であまりに疲れすぎた日には料理ができず、外食することもあります。でも、なるべく自炊するように頑張っています」

17歳男子の一人暮らしって、いったいどんな食生活なのでしょう。

練習はとにかくハード。必死で食べないと、57キロの体重をキープすることもままならないといいますが、質の高い食事と栄養バランスを、アスリートならば真剣に考えなければなりません。

「野菜の切り方から学んで、1年たって、切るスピードは上がりました(笑)。レパートリーはカレー。具材が一緒なので、シチューも作れるようになりました。『マーボーの素』なども日本から持っていき、トロントで何とか材料を調達して作っています」

頑張って作っているのは、卵を巻いて作る卵焼きとステーキだそうです。「ステーキは、これまでいつも焼きすぎて硬くなっていたけど、先日、いい感じでミディアムレアに焼けて、『やった!』と思いました」と屈託がありません。

■英語のインタビューで、頭が真っ白に!

トロントでの生活も3年。言葉の上で日常生活には何の心配もなくなったそうですが、「先生とがっつり技術的なことを話し合おうとすると、単語のレパートリーが少なくて、まだまだです」と謙虚に語る西山選手です。

国際舞台に立つことが増えて、ジュニアグランプリシリーズでは、突然呼ばれて英語でインタビューを受けることもありました。

「インタビューは日本語でも答えるのに気を使いますが、そのときは頭が真っ白になってしまって! 後で見返してみたら、その方がすごく簡単なことを言っているのに、なぜこんなことが答えられなかったのだろうって。回数を繰り返して、学んでいきます」

私が驚いたことは、スケート選手が、想像以上に過酷なスケジュールをこなしている点でした。11月、試合と練習のための移動はこんな感じでした。

トロント→東京→軽井沢→東京→岡山→滋賀→岡山→滋賀→東京→岡山→長野・野辺山→新横浜→トロント

1カ月の半分はホテル生活で、東京の実家にもほとんどいられなかったそうです。

「中学生になって本格的に競技をやるようになってからは、ずっと練習場所を求めて移動の毎日でした。だから、普段トロントにいるのは楽です。国内で東京とどこかのリンクの移動にかかる数時間が、日本とカナダ間で13時間になったというくらいの感じかなぁ」

それもこれも、「人の心を打つ演技」を求めてのこと。今後も、活躍に期待しましょう。

●取材・文/横井弘海(よこいひろみ)

東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)