叶わないと思っていた夢が目の前に…野球女子がNPBのユニホームを着た日

埼玉西武ライオンズ・レディースの発足会見に出席した新谷監督、出口彩香、六角彩子(左から)【写真:編集部】

埼玉西武ライオンズ・レディース誕生、西武がアマ女子チームを支援

 まるでプロ野球の入団会見のようだった。西武の居郷肇球団代表が手にとったライオンズのユニホームは、2人の女子選手に手渡された。埼玉西武ライオンズ・レディースでプレーすることが決まった侍ジャパン女子代表経験のある出口彩香内野手と六角彩子内野手は、緊張した面持ちでユニホームに袖を通した。ボタンを留めて、キャップをかぶると子供のような笑顔を見せた。

 子供のように――。彼女たちもNPBの選手になることを夢見た少女だった。小さい頃から男子に混ざって野球を始め、白球を追いかけた。小学校の頃は男子に負けなくても、中学生になると、少しずつ体格、力の差は出てきてしまう。今でこそ、女子硬式野球部のある高校も増えてきたが、野球を辞めていく女子の友達を何人も見てきた。それでも自分たちは大好きな野球を続けた。

 2018年、日本代表の主将を務め、ワールドカップ6連覇を達成した原動力となった出口は自分がプレーを続けることで、女子野球の未来が変わる突破口になればと、所属先が女子プロ野球リーグ、社会人チームと変わっても、ボールを追うことをやめなかった。今では彼女の背中を見て、野球を続ける後進たちも多い。

 その思いが形になった。12球団で初めて、西武が女子野球チームを支援することが決まった。西武ライオンズと同仕様のユニホームの制作、新しくなった室内練習場の使用、用具提供、西武アカデミーコーチの派遣などのバックアップを受けられる。信念が、ついに大きな動きとなった。

「埼玉西武ライオンズさんが、こうして支援していただけることをとてもうれしく思います。女子野球だけでなく野球界をもっと盛り上げていけるような活動したいですし、私たちだけでなく、下の世代に夢や希望を持って、しっかり頑張っていきたいと思います」

 会見で出口は責任を感じながらも、喜びをかみしめていた。隣では指揮を執る元西武右腕・新谷博監督はうなづきながら、話を聞いていた。新谷監督は尚美学園大学女子硬式野球部監督として、女子野球の発展に尽力してきた。出口は教え子の1人だった。女子野球に携わって15年。出口のように野球を続ける者もいれば、受け皿が少なく、野球を諦める子を何人も見てきた。

新谷博監督の夢でもあったNPB球団による支援、教え子が野球を辞める姿を見るのが「悔しかった」

「卒業した生徒が野球を辞めてしまうことがとても悔しくて……。野球を続けたら、きっといい選手になるだろうなという子が辞めていくのを毎年、見ている中で、なんとか続けられる環境を整備したいと思っていました。出口が卒業したくらいから、何とか一緒にやれる環境ができれば……」

 そう考え始めてから、5年の月日が流れていた。そして、昨年9月。新谷監督のかつて所属していた西武から「支援したい」という連絡が入った。居郷球団社長が会見で「女子野球の受け皿となるチームがなかなかないので、できる限りのことはしたいと考えていた。ライオンズの名前を使っていただいて、女子野球の発展につなげてほしい」と話したように、温かい気持ちを受けた。新谷監督は「感謝しかありません。自分のやりたかったことがついに実現する」。NPB経験者として、女子野球との架け橋になれた喜びと、ライオンズの名前を汚してはいけないという重圧で背筋が伸びた。

 六角は埼玉栄高校出身で、好きなチームは小さい頃からライオンズだった。「小学校の頃から、ゲームで選抜するような大好きなチーム。そのチームのユニホームを着てプレーができることにとてもワクワクしています」と終始、笑顔だった。自分が憧れのチームのユニホームを着られる日が来るとは思ってもいなかった。「ユニホームを着ている以上は、しっかりと責任を持って活動をしていこうと思いますし、女子野球人口も増えているので、女の子たちの目標となれるような存在になっていきたいです」と目を輝かせた。

 発足は4月の予定。会見では多くの報道陣が集まり、その夢の瞬間に立ち会ったが、チームは現実ともしっかりと向き合わないといけない。彼女たちはプロではなく、アマチュア選手が集まるクラブチームの一員。選手たちは別の職に就いて、土日などの休みを利用して活動する。その中でしっかりと結果も出していかないといけない。新谷監督は「これからは責任、ライオンズの名前を背負う。今までの女子野球と変わったチームにならないといけない」と女子野球界の中では注目度が高いことを常に意識して活動していく決意を語った。

 大きな使命感を持って、大きな船が動き出す。出口は「小学生のころ(NPBの)プロ野球選手になりたいという思いがあったんです。こうしてライオンズに支援をしていただいて、目標とされる存在になれたのかなと思います」とこれからも先頭に立って女子野球界をリードしていく。小さい頃からの夢だった真っ白なユニホーム。その姿は、野球少女たちの大きな希望となり、夢への出発点となった。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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