「ポジションにはこだわりはない」冨安健洋が切り開くサイドバックとしての新たな可能性

いよいよ今年開催となる東京五輪はもちろん、長く険しいFIFAワールドカップ・アジア予選でも主軸としての活躍が期待される、若きディフェンダー、冨安健洋。ベルギー1部のシント=トロイデンからセリエA・ボローニャに移籍した1年目のシーズンから、地元メディアに「ボローニャをけん引する右サイドの矢」として特集が組まれるなど注目を集めている。サイドバックとして切り開いた新境地やポジションへの想い、そして意外な素顔について話を聞いた。
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=高橋在)

センターバックのポジションからどんどん離れていっている

ボローニャFCが勝利した、ナポリとの試合(2019年12月1日/セリエA 第14節のナポリvsボローニャ)で、冨安選手が30mくらいボールを運んでいたシーンがありましたが、もともとボールを運べる選手だったんですか?

冨安:いや、以前はむしろ「運べ」って怒られていたくらいです。でも、森保(一)さん(日本代表監督)は「ボール運べ」ってよく言うので、そういう影響もあると思います。

前半でスピードでかわして抜いたシーンも、正直、ああいうプレーヤーだと思ってなかったから意外でした。

冨安:僕も思ってなかったです(笑)。

練習ではやっているんですか?

冨安:そうですね。でも、ちゃんとサイドバックをやるのはこのチームが初めてだったので。

ここまでできるとわかっていて、ボローニャは獲得したんですかね?

冨安:いや、ここまでガンガン前にいくタイプだとは思っていなかったと思います。

すごい引き出し持ってる選手なんだなと感じました。

冨安:正直、僕も、センターバックのポジションからどんどん離れていっているなと感じています。

まだ21歳ですし、世界のトップオブトップへ行こうとしたら、サイドバックのほうがチャンスが多いかもしれません。

冨安:確かに。僕はポジションにはこだわりはないですし、絶対にセンターバックしかやりませんというわけではないので。

アビスパ福岡でプレーしていた時は、ボランチもやっていましたよね?

冨安:はい。

これまで経験してきたボランチ、センターバック、サイドバックの中なら、世界のトップに一番近いのは、サイドバックなんじゃないかなと個人的には思います。

冨安:ボローニャでやる前からサイドバックは好きだったので、抵抗はなかったですね。

クラブと代表で違うポジションをやるのはどうですか?

冨安:ボローニャに移籍してからは、まだ代表ではあまりプレーしていないのでわからないですけど、そんなに変わらないと思います。

人のミスであっても自分のミスだと思いがちな「ネガティブ」思考

アビスパでプロサッカー選手のキャリアをスタートしてから、驚くほどのスピードで今の位置まできたと思いますが、自分自身ではどのように感じていますか?

冨安:ここまでがうまくいき過ぎていて、これからが怖いですね。タイミングや運が良くてここまできているので、正直、「これからどうなるんだろう」っていう感じです。

冨安選手は、あまりポジティブ思考ではない?

冨安:ポジティブじゃないです。

慎重派というか、どちらかというとネガティブなんですか?

冨安:かなりネガティブだと思います、昔から。人のミスであっても自分のミスだって思うくらいネガティブです。

誰のミスでもないものも、自分がどうにかできたんじゃないかって思うタイプですか?

冨安:それはありますね。

そういう意味では、ディフェンス向きなのかもしれないですね。

冨安:大変ですけどね。疲れます(苦笑)。

それは疲れますよね。なんだか、21歳と話している感じがしないです(笑)。

冨安:よく言われます(笑)。

そういう性格だと精神的に疲れることもあると思うんですが、そういう時はどうやって発散したり、気分転換しているんですか?

冨安:(長友)佑都さんの「ポジティブシンキング」が有名になったじゃないですか。この国に来て、ポジティブじゃないとやっていけないなっていうのは、すごく思うようになりました。

確かに、長友選手も明るい性格ですが、もともとはそんなにポジティブではなかったですから。でも、今もずっと謙虚ですよね。こないだも、いつ(代表メンバーから)外れてもおかしくないってずっと言っていて。

冨安:自分もイタリアに来たからこそ、改めてすごいなって思います。

しかも、監督が変わるたびに何度もポジション失っているんですよ。それでまた取り返すのが、長友選手のすごいところですよね。そういう意味では、(吉田)麻也選手もそうですけど、代表の先輩たちが苦労しながらやってきているモデルケースがあるから、参考になることもありますよね。

冨安:そうですね。先輩方も、常にうまくいっているわけじゃないっていうのは知っていますし、僕もへこたれないようにやらないとなって思います。

今のところ、へこたれる必要は何もないのでは? ケガだけには気をつけてほしいですが。

冨安:でも、先日のミラン戦(2019年12月9日/セリエA 第15節のボローニャ vs ACミラン)はけっこうショックでしたね。今までにないくらい。今までも大事な試合や大事な場面でやらかして負けるっていうのはありましたけど、やっぱり重荷が違います。失点シーン以外でも、右センターバックに僕がボールを運んで、相手の10番(ハカン・チャルハノール選手)をうまく外したかったんですけど。前半はずっとジェスチャーで表現したりしてたんですけど、なかなか思うように出てくれなくて。難しかったです。でも、切り替えてやらないといけないですね。

まだ一試合だけですから。確かに、そう考えるとネガティブ思考なのかもしれません。

冨安:チームメートも「気にするなよ」って言ってくれましたけど、僕はもともとネガティブですし、自分一人で殻に閉じこもって解決しようとしてしまうところがあるので、性格上けっこう難しいです。

そういう時には、誰かに相談したりするんですか?

冨安:あんまりしないですね。できないんです。もっとできたほうが楽に生きられるし、周りからしてもかわいげがあると思うんですけど(苦笑)。

誰かに相談することで、全然違った視点や考え方に気づけるかもしれないですよ。

冨安:日本人選手とはできると思います。アビスパ福岡にいた時は、先輩と食事に行った時に、けっこう真面目な話もしていました。日本人以外とはわかり合えない気がしていて、(今の)チームメートとは自然と一線を引いてしまうというか……。オランダや北欧から来ている選手とは感覚も合うのでサッカーの話はしますけど、悩みを相談するという感じではないですね。

冨安選手はまだ21歳と若いですから、今後そういったコミュニケーションの壁を越えていく選手になるのを期待しています。

冨安:それは僕の一つの課題だと思っています。

どんな監督、サッカーでもピッチに立ち、求められることができる選手でありたい

アビスパといえば、仲川(輝人)選手がA代表デビューし(編集部注:2019年12月14日に韓国・釜山で行われたE-1選手権の香港戦にて)、Jリーグでは2019年度のMVPに選ばれましたね。

冨安:すぐに連絡して、今度、食事に行こうという話になりました。アビスパにいた時もお世話になったので、代表でも一緒にやれたらいいですねって話しました。

一緒にやってきた仲間が活躍する姿を見るのは、うれしいですよね。

冨安:はい。輝くんの人柄も好きなので。

でも、冨安選手の活躍は仲川選手にとっても、一番の刺激になっていると思います。

冨安:それは輝くんからも言われました。

冨安選手のキャリアにおいて、短期的な目標はどこに置いているのですか?

冨安:まずは東京オリンピックの出場メンバーに選ばれて、試合に出ることですね。

自国開催のオリンピックは、当たり前ですが特別ですよね。

冨安:やっぱり、開催時期が近づいてくるにつれて特別感が増してきています。

オリンピックには、直前合宿含めて、クラブは出してくれるんですか?

冨安:はい、それはクラブとの契約に入れてますし、クラブの人も前向きに考えてくれています。

コパ・アメリカ2019の時、ジーコ氏と(イビチャ・)オシム氏が冨安選手と中島(翔哉)選手のことを、期待できる選手として名前を挙げていましたが、そのような注目を浴びているという自覚はありますか?

冨安:特にないです。しかも、コパ・アメリカの時は、正直、長距離移動であんまりコンディションも良くなかったし、僕自身もあの大会は満足できるものじゃなかったです。

替えのきかない選手だという評価をされていますが。

冨安:その感覚はないですね。別に気にしていないというか。

あんまり人からの評価とかを気にしないほうですか?

冨安:いや、気にはしますね。ただ、認められたいと思う人もいるし、別にいいやと思うこともあります。

自分が認められたい人に認められればいい、という考えなんですね。

冨安:はい。最終的には、みんなに自分を認めさせるのがゴールではありますけど、そのゴールはないに等しいので。

森保監督は、冨安選手から見てどんな人ですか?

冨安:ご存知のとおり、いい人です。滲み出てますよね。

なかなかサッカー界、特に監督にはいないタイプですよね。

冨安:そうですね。似ているタイプでは、今はコーチですがアビスパで監督だった井原(正巳)さんも。

確かに! 監督の後にコーチに戻ることを引き受けるようなところも、井原さんらしいですよね。でも、森保さんも怒る時は違いますよね。試合時、ベンチからの気合いの入れ方はすごく特徴があるなと。

冨安:そのメリハリは、はっきりしていると思います。

五輪世代の若い選手が多い時と、ベテランのA代表メンバーが多い時とでは、違ったりするんですか?

冨安:違うらしいです。僕はあまり感じてないですけど、周りからはそう聞きます。

冨安選手には、どういう声がけをしてくれますか?

冨安:ポジティブな言葉をかけてくれることが多いですかね。コパ・アメリカのウルグアイ戦の後に話した時には、「しっかり反省して次に繋げるというのはトミの良いところだけど、それを試合中にしちゃダメだぞ」って言われました。反省するのは試合後で、試合中はもっとお前はできるんだから、どっしりと自信持ってやれ、みたいな感じでしたね。

冨安選手に合ったアドバイスだと感じます。ネガティブなところや、それが長所でもあることをわかっていて、試合中に悩んでいるところを見て取ってくれたんですね。

冨安:そうだと思います。確かに、ウルグアイ戦は僕もネガティブになりながらプレーしている感覚はありました。でも、森保さんの視点からはっきり言ってもらえたのはプラスになったし、それ以降は試合中にネガティブになってしまっても仕方がないけど、自信を持ってやろうというのは、今でも試合前から意識して臨んでいます。

冨安選手の理想のプレーヤー像は?

冨安:それは変わっていくでしょうし、正直、今が一番迷っている時期でもありますね。

迷っているというのは?

冨安:自分自身、「どんなプレーヤーになるんだろう?」と。もともと、どこが本職かと言われたらセンターバック、としてやってきた中で、今はどんどんそこから遠ざかっている気がするし、でも、かといってそれが悪いことだとも思わない。気持ちが揺れ動いている感覚です。

すぐに、どちらかに決める必要もないですしね。

冨安:監督が代わっても試合に出続ける選手でありたいと思っているし、サッカーが変わったら試合に出られない選手というのは、良い選手とは思わないですし。中学や高校、アビスパでやっている時に、そうやってスタッフから言ってもらったこともありました。だからどんな監督、どんなサッカーでも、ピッチに立って、監督が求めることができる選手ではありたいと思っています。

<了>

PROFILE
冨安健洋(とみやす・たけひろ)
1998年11月5日生まれ、福岡県出身。ポジションはディフェンダー。セリエA・ボローニャFC所属。日本代表。2015年に高校2年生ながらアビスパ福岡に2種登録され、2016年にトップチームへ昇格。2018年にシント=トロイデンVVへ移籍し、2019年よりボローニャFCに加入。日本代表では、2018年のキリンチャレンジカップで、10代のセンターバック選手として初のA代表出場を果たした。AFCアジアカップ2019、サウジアラビア戦でA代表初ゴール。同年、コパ・アメリカ ブラジルでは全試合フル出場を果たし、2020年開催の東京五輪だけでなく、2022年FIFAワールドカップ予選・本大会での活躍に期待が寄せられている。

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