WEC:ル・マンで“トヨタvsレクサス”実現の可能性も。TRD代表がLMHとDPiの統合に期待

 TRDトヨタ・レーシング・デベロップメントの社長兼ゼネラルマネジャーを務めるデビッド・ウィルソンは、WEC世界耐久選手権の新しいトップカテゴリーであるLMHルマン・ハイパーカーと、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権の次世代DPi規定というふたつのプロトタイプクラスの規則が収束したとき、それはレクサスがDPiプログラムを行う上で「説得力のある」理由になると語った。また、ウィルソンは同ブランドがル・マン24時間レースに挑む姿を見たいとも述べている。

 レクサスは他の十数社のOEMメーカーと同様に、2020年3月までに草案の形で最終決定される予定の2022規定いわゆる“DPi 2.0”規定を策定するためのIMSA運営グループ委員会会議の一部として、これに参加している。

 北米シリーズを運営するIMSAと、ル・マン24時間の主催団体であるACOフランス西部自動車クラブは、早ければ2022年にも次世代DPiとLMHが単一のクラスで争えるよう合意に近づいていると報じられているが、ウィルソンはこの議論が現実のものとなり、同じクルマで、デイトナのロレックス24、モービル1・セブリング12時間、そしてル・マン24時間に参加できた過去のようにスポーツカーレースが活気づくことを期待している。

 TRDのボスによると、レクサスはまだスポーツカーレースにおける長期的な将来の見通しを決めていないという。これはメーカーの生産車のロードマップを考慮したとき、次世代DPi規定の形が現在レクサスRC F GT3で参戦しているGTD(GTデイトナ)クラスのそれを超えるコミットメントがあることが要因となっている。

「この部屋のなかでもっとも大きな問題となっているのは、世界中で一般的になりうるレギュレーションの設定だ」とウィルソンはSportscar365に語った。

「レクサスはGTレーシングにとても満足している。だが、それは現在の(商品)ラインアップに依存している。RC Fの次のサイクルはどうなるのか(私たちにも)分からないんだ」

「現在開発中のクルマの中にはGTプログラムを継続させる可能性を持つものもある。もし、ロレックス24からクルマを取り出し、そのままル・マンで走らせることができれば状況は一変するだろう」

■もう一度ル・マンに「チャレンジしてみたい」

「1993年にダン・ガーニーと一緒にロレックス24で初めて優勝したときのことは今でも覚えている。その後、我々はセブリングでも勝利を手にしたが、ル・マンには行かなかった。私はそれを思い返したとき、我々にもできたのではないかと考えた……私たちの会社(トヨタ)は最初のル・マン優勝を果たすのにほぼ30年掛かったんだ」

「私はスポーツカーレースに熱中していたエンジニアとして、もう一度チャレンジしてみたいと思っている」

「良いニュースなのは、私たちがIMSAのジム・フランス会長と新代表のジョン・ドゥーナンと素晴らしいコミュニケーションを維持していることだ。今後も動向を見守っていく。もちろん、ヨーロッパに居る我々の同僚たちは彼らの計画を進めている」

2018年シーズンからIMSA WSCCのGTDクラスに参戦しているエイム・バッサー・サリバンのレクサスRC F GT3

 ウィルソンによると、レクサスとTRDは新しいプラットフォームの将来性をよりよく理解するため、運営グループ会議に「静かに」関与していると述べた。

「我々にはひとつの使命がある。それはトヨタとレクサスの経営陣にこのスポーツの状況と、DPiが哲学的に進んでいく場所について助言することだ」

「私たちは技術的な関連性やスタイリングの観点からDPi 2.0をサポートしている。レンダリングに関してはどれだけ示したかは分からないが、新しいプロトタイプレースではスタイリングの関連性が問題のひとつだ」

「公平を期すために言っておくと、DPi 2.0の成功の柱のひとつはスタイリングの関連性の向上にあるんだ。それは技術的な関連性と相まって、我々が潜在的に検討をするためのバーを動かし続けている」

■コストの問題でIMSAは妥協すべきではない

 仮にふたつの規則の収束が実現したとしても、TRDがトヨタGRスーパースポーツをモチーフに開発されたハイパーカーを使ってIMSAでレースをすることは「疑わしい」とウィルソンは言う。

 Sportscar365は2020/21年シーズンのWECでデビューするトヨタのプロトタイプ・ハイパーカーのプログラム予算が5000万ドル(約55億円)台であると理解している。

「ハイパーカーにかかる費用はたとえ新しい方法を模索したとしても、かなり法外なものになるだろう」とIMSA側に立ったウィルソン。

「この問題は明らかにレギュレーション統合時に直面する課題となっている。この点に関してDPiは素晴らしいフォーマットを持っている。ル・マンに行くためだけにそこまで妥協すべきではない」

■トヨタとレクサスが「互いを尊重して」ル・マンのトップクラスで競演か

 ウィルソンはレクサスがDPiプログラムにゴーサインを出し、それをル・マンに持ち込むことで親会社のハイパーカーと直接競合する場合となっても、大きな問題にはならないだろうと述べた。

「おそらく私たちが経営陣とともに解決していくことになるだろう。そして、それは明らかに適切かつ互いに敬意をもって行うことになるはずだ」と語ったウィルソン。

「この検討におけるより大きなポイントは、レクサスがDPiに移行する可能性を考えることだ。ルールの統合はその考えに大きな影響を与えるだろう」

「その方がずっと説得力がある。しかし、それなしでも不可能だとは言っているのではない」

2018年、2019年のル・マン24時間で勝利を飾っているトヨタ。2020/21年シーズンはハイパーカーを投じる。
エイム・バッサー・サリバンは2020年も引き続き、2台のレクサスRC F GT3を走らせる。

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