テーマ ◆ けがのメカニズムと予防策(後編)

運動で体の機能性を維持 元気で生き生き自立生活

Q. 腰痛や肩凝りなど、筋肉骨格系のけが予防に役立つ運動とは?

A.

けがを予防するための3本柱は、「1日8時間の良質な睡眠」「バランスの取れた食事」「機能運動性を高める運動」です(前編参照)。そのうちの運動は、「体の正しい使い方」を習得し、体の機能性を高めるために行います。体への負荷を減らし、けがをしにくい体を作ります。

機能運動性トレーニングは、有酸素運動と組み合わせることで、何歳からでも効果的に自己治癒力を高めることに役立ちます。歩く、走る、泳ぐなどの有酸素運動の狙いは、心肺機能のトレーニング、体重コントロール、血糖値を下げること。簡単にいうと、歩く、仕事をする、疲れにくいなど、生きるための基礎を作る運動です。

重い物を持つと腰痛になるのではなく、持てないから腰痛になるのが機能運動医学の考え方。体の使い方を基礎から学びトレーニングする(出典:「根こそぎ『疲れ』がとれる究極の健康法」)

Q. 機能運動性トレーニングとは、どんなことをするのですか?

A.

アスリートは別ですが、一般の人の場合、正しく安全な動きができるように、最初の4〜8週間は極力ダンベルを使わないトレーニングを週2回行います。動きをマスターし、機能運動性が上がってきたら、少しずつ重りを使ったトレーニングに移ります。

私は「スクワット」「デッドリフト(床から物を持ち上げる動き)」「腕立て伏せ」など、日常生活でよく使う動きを取り入れた運動を特に重視しています。例えば、赤ちゃんを抱き上げる動作はデッドリフトの応用です。「赤ちゃんを抱くと腰が痛い」という人は、デッドリフトによって体の正しい動きを習得し、痛みを解消できるかもしれません。腕立て伏せの動きは、重いドアの開閉など、何かを押したり引いたりする動作の基本です。

けが予防のため最初にすべきことは、けがにつながる動きをできるだけ避けることです(前編参照)。そして、睡眠と食事によって体力と自己治癒力の回復に努め、最後に運動によって体の使い方を学びます。痛みや症状がある人は、運動を始める前に医師に相談することをお勧めします。

Q. 週末だけの運動でも、けが予防の効果はありますか?

A.

平日に運動をせず、週末だけ趣味のゴルフや野球、マラソンなどのスポーツに打ち込む人を週末戦士(ウイークエンドウォリアー)といいます。運動するのはとても良いことですが、一気に運動量を増やすとけがの原因になります。週末の「本番」に備え、できれば平日に少なくとも2〜3回、短時間でいいので何か運動をするといいでしょう。

プロのマラソン選手、野球選手、サッカー選手も皆、スポーツ以外に体の機能運動性を高めるトレーニングを行っています。好きなスポーツだけでなく、「好きなスポーツのためにする運動」がけがの予防には必要なのです。

Q. 健康のため、これから走ろうという人にけが予防のアドバイスを。

A.

これまで運動習慣があまりなかった人であれば、いきなり走るのではなく、まずは歩くこと(ウォーキング)から始めましょう。

けが予防のポイントは、負荷を少しずつ上げることです。体に痛みや問題がなく30分歩けたら、次は少し早く歩いてみましょう。それもできたら1分走り、次は2分というように、徐々に時間と距離を伸ばします。走った日の翌日は運動を休み、最初は週2〜3回程度にとどめましょう。

運動を始めると心肺機能が先に強くなるので、もっと走れる気がするかもしれませんが、体はそれほど早く変わりません。ここで無理をすると、けがをしてしまいます。走る目的が健康のためであれば、焦らずゆっくり距離を伸ばしていけばいいのです。

1日8時間睡眠、バランスのとれた食事、機能運動性トレーニングにも、同時に取り組みましょう。走っている最中や、走った直後の強い痛みは、体の異常のサインかもしれません。痛みが続くときは、専門家に相談してください。

運動をすると、けがをするリスクも当然上がります。ですが、けがを恐れて運動しなければ、加齢とともに体は確実に衰えます。病気がちになり、好きなこともうまくできなくなるかもしれません。睡眠や食生活の改善はもちろん、体の機能を保つ/高める運動を自分のペースで無理なく続けることが、元気で自立した生活をできるだけ長く送るための鍵なのです。

※次回は秋山祥子さんに、心身の健康と筋膜の関係についてお聞きします。

仲野広倫先生 Hiromichi Nakano, DC, DACBSP

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全米に約400人いるスポーツカイロ専門医(DACBSP)の一人。 大正15年創業の仲野整體4代目。筋肉骨格系症状の低侵襲治療が専門。 著書に「世界の最新医学が証明する 究極の疲れないカラダ」「根こそぎ『疲れ』がとれる究極の健康法」(アチーブメント出版)がある。 2019年パンアメリカン競技大会米国代表チーム帯同。 2020年東京五輪米国代表チーム帯同予定。

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