ホアキン初のアカデミー賞受賞は固い? 2作品16部門ノミネートのNetflixの行方は⁉ 第92回アカデミー賞を占う

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC

第92回アカデミー賞のノミネート作品が2020年1月13日(現地時間)に発表された。賞レースの最後を飾る、世界で最も有名なこの映画賞で、最後に笑うのは『アイリッシュマン』『ジョーカー』か、それとも『パラサイト 半地下の家族』か。

Netflix映画「アイリッシュマン」11月27日より独占配信開始
『ジョーカー』©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC
『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

Netflixアレルギーは克服されるか? 大御所と実力派の2作『アイリッシュマン』と『マリッジ・ストーリー』

2019年はNetflix製作の映画が大きくクロースアップされた、言わば配信映画元年だった。だが、数々の映画賞を席巻し、その勢いのままアカデミー賞最多10部門にノミネートしたNetflix製作、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』は、監督、撮影、外国語映画の3賞に終わり、肝心の作品賞はピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』にさらわれてしまった。これは私には、ちょっとした“事件”に思えた。映画館に利益をもたらさない配信映画に対して、古参のアカデミー会員がアレルギー反応のようなものを起こしたのではないか、と。

配信映画2年目の2020年は免疫が出来てきたのか、マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』とノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』という2本のNetflix製作映画がノミネートを果たした。

『アイリッシュマン』は、名匠スコセッシが古巣のマフィア映画の世界に戻って、元トラック運転手でマフィアのヒットマンとなった男の半生を描いたもの。作品賞の他、スコセッシが監督賞、ジョー・ペシ、アル・パチーノが助演男優など10部門にノミネート。

『マリッジ・ストーリー』はアダム・ドライヴァーとスカーレット・ヨハンソン演じる夫婦の離婚をめぐるゴタゴタを、バームバックが辛辣かつ愛情たっぷりに描いたもので、作品、監督、主演男女優の主要部門を押さえた計6部門にノミネート。この2作品で16部門ノミネートは立派だが、アレルギーが完全に克服されたかどうかは、結果を見てみないとわからない。

アメコミ映画の枠を超えた傑作『ジョーカー』、タランティーノのハリウッド讃歌『ワンハリ』

2020年、最多11部門にノミネートされたのはトッド・フィリップス監督の『ジョーカー』だった。『バットマン』の悪役ジョーカーを現代的なアンチヒーローに仕立て、ロケ地のニューヨークの階段が観光名所になるほどの社会現象を巻き起こした。特にジョーカー役のホアキン・フェニックスの演技が絶賛され、すでにゴールデン・グローブ賞主演男優賞などを受賞。アカデミー賞無冠の彼が初のオスカーを手にするのはほぼ確実だ。

ちなみに、主演女優賞の方は『ジュディ 虹の彼方に』で往年の大スター、ジュディ・ガーランドを演じたレネー・ゼルヴィガーが最有力だ。

『ジョーカー』に次ぐのは前述の『アイリッシュマン』、クエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、サム・メンデスの『1917 命をかけた伝令』の10部門ノミネートで、この4本が今年は頭ひとつ抜きん出ている。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、今年に入ってクリティクス・チョイス・アワードとゴールデングローブ賞の作品賞を連続受賞し、いま一番勢いに乗っている。だが、タランティーノのこれまでのアカデミー賞受賞歴からすると、映画批評家に受けるほど映画業界人には受けていないように思える。固いのはプロデューサーとしても映画界に貢献している、ブラッド・ピットの助演男優賞だ。

驚異の映像を生み出した撮影の名匠、アジア映画界の急先鋒

『1917 命をかけた伝令』は、翌朝の攻撃を中止する命令を伝えに最前線に向かう2人のイギリス兵を描いたヒューマンドラマで、全編を1カットで撮った驚異の映像が話題(もちろん1カットに見えるようデジタル処理されている)。ゆえに技術系部門のノミネートが多く、中でもロジャー・ディーキンスの撮影賞が最有力で、皮肉なことに何度ノミネートされても受賞に至らず、14作目のノミネート『ブレードランナー 2049』(2017年)でやっと初受賞したイギリスの名撮影監督は、2つ目のオスカーをあっさり手に入れることになるだろう。

今年大注目の『パラサイト 半地下の家族』は、作品、監督、脚本、美術、編集、国際映画(外国語映画改め)の6部門にノミネートという快挙を果たした。ただ、この中で間違いなく受賞するのは国際映画賞くらい。もっと賞を獲って欲しいのはもちろんだが、ハリウッドの強豪映画に混じって、これだけのノミネートを獲得したこと自体が素晴らしい。韓国映画生誕100年をパルム・ドール受賞で祝ったポン・ジュノ監督が、アカデミー賞受賞で締めくくりをつけることは間違いない。

ともあれ、すべての結果は2020年2月9日の夕(日本時間10日の昼)、ロサンゼルスのドルビーシアターで。

文:齋藤敦子

© ディスカバリー・ジャパン株式会社