「液晶パネル」による軌道修正?ブレークスルー・スターショット計画

将来、宇宙探査を行うミニ探査機はDVDや液晶パネルのような帆を広げているかもしれません。2018年12月、物理学の専門誌にある論文が掲載されました。論文は、レーザー光によって探査機を推進する「ブレークスルー・スターショット計画」に関するもので、予定の軌道からのずれを修正する機能について書かれています。

ブレークスルー・スターショット計画は2016年に発表されたもので、非常に薄い帆を持つ小さな宇宙船を打ち上げ、強力なレーザー光による推進力でケンタウルス座アルファ星へと向かわせるものです。化学反応による推進力を主とする現在の宇宙船ではアルファ星に到達するまでに約3万年かかる計算ですが、この方法を使うと約20年で到達できるようになります。また、現在の宇宙船で遠くに行くためには多くの燃料を必要とし、多くの燃料を搭載すると重くなるためさらに燃料を必要とする・・・という問題を回避することもできます。光を当てて推進するというのは想像しにくいかもしれませんが、十分に大きな帆(鏡)と軽い宇宙船であれば、例えば太陽の光を利用した「ソーラーセイル」を使って推力を得られるということが数多くの実験で示されています。計画ではレーザー光を使用するため、「レーザーセイル」と言えますね。

ただし、この計画には1つ心配な点があります。計画では(少なくても初期の段階では)レーザー光を発する装置は地球に設置することを予定していますが、地球からレーザー光を発射している際、もし宇宙船が予定のコースからずれてしまったらどうするのでしょうか。もしかすると、目的とする星から大きく外れていってしまうかもしれません。

科学者たちはこの課題を解決するために「回折格子」を利用して、宇宙船がコースからずれても原理的には自動的に元に戻る仕組みを設計・テストしています。回折格子は身近なところではCDやDVDでも見ることができます。特定の間隔で刻まれた溝やスリットがあると光は散乱または回折しますが、色(波長)が異なる光は異なる方向に進むため、CDやDVDの裏面を見ると虹色のように見えるのです。

これを利用した新しい帆は2つの回折格子を並べたもので、それぞれの格子はプラスチックのシートに含まれる液晶で作られています(同様の液晶はディスプレイなどにも使われています)。以前の帆は鏡のようになっておりレーザー光をもとの方向へ反射するものでしたが、新しい帆の液晶は光をある角度で回折させ、直進する方向と横方向の両方の力を生み出します。これにより、帆の中心部にレーザー光が当たるように元に戻す力が働き、軌道修正できるという仕組みです。現在はどんな方向にずれても元に戻るような帆のテストが行われています。

液晶パネルがはるか遠くの星を目指して旅をするような姿を(厳密には違うものの)想像してしまいますが、実現すれば人間の寿命よりは短い時間で他の星に到達できるようになるため、非常に楽しみな計画ですね。

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Image Credit: Space.com
Source: Space.com
文/北越康敬

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